門並 麗(女子3番)は、地図でいうC=7付近を彷徨っていた。
今の彼女は、極度の緊張状態だったといっていい。なんせ、放送で既に“残り2人”と宣言されていたのだ。残 り2人、すなわち自分が殺さなければならない相手は、悪魔、外都川一(男子13番)。
脳裏をよぎる、遥か過去のように思える記憶。忘れもしない、あれは最初の放送がなっている最中だった。


 あの時は、自分と一緒に行動していた、出席番号一番違いの親友がいた。彼女の名前は神 悦子(女子4 番)。彼女と合流した途端に、直前に出発していた筈の木村直哉(男子4番)が襲ってきた。私達は逃げたの だ。そして……お互いに武器を確認し合った。幸運にも、2人とも銃だった。でもその時はまだ、その銃を使う事 なんて全く考えていなかった。
そして、運命の時。放送を聞いている時に、突然悦子が胸を抑えて倒れたのだ。肌蹴たブレザーは赤く染まっ ていた。首を回すと、サイレンサーを装着した銃を持つ男、外都川がそこに立っていた。
本当はあの時死ぬ予定だったのだ。でも、その時にあの人が、私を救ってくれた、私だけを、逃がしてくれたん だ。
宗村英光(男子18番)。私が密かに慕っていた男の子。彼も、私のせいで死んでしまった。もっとも、それを確 認したのは6時間後の放送だったのだけれど。とにかく、この男のせいで私は2つの大事な人物を、それもあっ という間に奪われてしまった。だから私は決めたのだ。



 私もみんなから奪ってやるのだ、と。



 このとき私の精神状態は不安定だったのかもしれない。気がつくと、既に7人を殺害してしまっていた(その中 には、最初に私を襲った木村も含まれていた)。全部、それは外都川に復讐するため。他人なんて、どうでもよ かった。あの男に奪われた2人に比べれば、なんてことないただのクラスメイト。そう、考えていた。
そして今、最も殺したい奴が生き残っている。勝たなければならなかった。大事な人を奪った史上最悪極悪非 道の悪魔に、制裁を加えなければならなかった。



 もう、あとには引けないんだ――!



 慎重に歩を進める。既にゲームが始まってから5日が経過している。禁止エリアも集中してきて、この6時間 で会場は綺麗に分断されてしまうほどだ。まぁ、その1時間前にタイムリミット、最後に死亡した相内圭子(女子 1番/私が殺した)から24時間が経過してしま うので、関係ないのだけれども。
だからこそ、急がなければならないのだ。あと3時間半で決着をつけなければならない。焦ってはいけない。禁 止エリアのおかげでこのエリアの三方は塞がっているのだ。袋小路になっているここなら、必ず、悪魔は降臨す る。



 パシュッ!



 突然、微かな音がした。
 途端、腹部に激痛を感じた。



「かっ…はっ……」

 まさか! いつの間にこんな近くまで寄ってきたというの!?

「あの時俺がお前を殺していたらな、今頃ゲームは終わっていたのによ」

 紛れもない、外都川の声。決して共感をもてない、嫌な笑み。激痛に耐えながらも、麗は言った。

「残念ね……私はもう7人殺しているの。あの時逃さなかったら、まだゲームは続いていたわよ……!」

「そうとは限らないさ。俺はもう23人殺した」



 え?

 今……なんて言ったの?



 23人……?



 何でそんなに人を殺せるの?
 貴方には、心というものがないの?



「俺は弟にもう一度会いたい。一目会えればいい。そのためだったら、お前を含め24人殺したとしても(のちにこ れに1を足した数字が過去ベスト10になったキルスコアとして歴史に残る数字となった)、俺は悔いは残さな い」

「う…うわぁぁああっっ!!」

 間違っている。

 そんなこと……そんなことのために、貴方は大量のク ラスメイトを殺してきたのね?


 許せない!!


 麗は駄目もとで、歯を食いしばりながら銃口をあらためて外都川に向けて構えた。
だが、あらかじめ構えていた奴に敵うものなのか。


「あばよ門並ぃっ!!」


 そして、一発のか細い銃声。
サイレンサーのついたそれは、ゲームを締めるものとしてはあまりにも情けない音だった。



以上で、1999年度第42号プログラムは終了した。




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