ishikawa

２

　県道を走っていくバス。クラスの大半が呑気にくだらない話をしている中、たいしてそんなにテンションも高くなれずに、窓の外をぼんやりと、徳永泰志（石川県志雄町立大井川専門中学校３年５組３１番）は眺めていた。

　３年生になって間もない４月の今日、自分達３年５組は特別授業を行った。もっとも、３年になったといっても、その顔ぶれは変わらない。この大井川専門中学は変わったクラス編成をしていて、生徒は全員五十音順に並べられている。自分達のクラスは全体的に少ないタ行を受け持っているのだが、同姓がない唯一のクラスでもあった。
特別授業は遠くの町でやるとかいって、担任の轟（こいつまでタ行だ）がバスで連れて行った先は、大東亜軍銃器博物館。その名の通り、いろいろな銃の種類だとか、やれこれは手榴弾の模型だ、やれこれは偉大なる総統のレプリカだの、はっきりいってしまうと聞いててつまらないような授業だったといえる。

「まったく……こんな特別授業なら他のクラスみたいに普通の授業やったほうがいいって」

　思わず独り言を言うと、隣の席に座っている自分と同じくらいの身長（泰志は１６５センチだった）の、表情豊かなクラスのムードメーカー、大河幸弘（１番）が笑って言った。

「ヤスシってさ……なんかこう真面目になるときってあるよね。僕は別に楽しかったよ。バスの中で話とかできるじゃん？　いいよね。こう、なんか旅行気分で♪」

「そうだって、オレ達仲間じゃん？　学校までまだまだかかるからさ、なんかやろうぜ、な？　な？」

　後ろの席に座っていた、寅山　寿（４１番）が身を乗り出してきた。ちなみに自分達のグループはこの辺りの席を陣取っている。別にどこの席に座ってもいいと決められているのは嬉しい。隣の席には同じく仲間の一員である筑後高志（１０番）がいて、さらにその前の席には千代崎元道（１２番）と、そして寺井晴行（２４番）が座っていた。この３人は頭がいい方で、また受験でもいい学校を目指しているらしく、今は参考書を出して読んでいたり、中間考査の問題予想などの話題で盛り上がっている。
泰志を筆頭に構成されているこの６人は、クラスで最も大きなグループだ。１年のときからクラス替えなんてものがなかったから、いつの間にか結束の高いグループが出来ていた、というわけで。そしてふと気がつけば、何故か泰志がリーダーとして納まっていた。まぁ、これはこれで別に良かったのだが。そんな自分の成績はクラスの中では中の上。この中では最も頭のいい筑後は、学年でも指折りの成績を取得している。
また、頭の悪い人物もいる。寿も学年でも下から数えて１０もないくらいの頭脳だが、うちのクラスにはもっと悪い者がいた。いや、正確に言うと成績自体は悪くはないのだが、俗に言うワルぶった奴等である。
それは、堤　洋平（１７番）と綱嶋裕太（１９番）のコンビ。中学生で初めて一緒になったこの２人は、町内でも結構有名なワルで、そして学校も休みがちだった。この２人が手を組むと、もう手がつけられないくらい酷く、先生も学校に来なくなる事を望んだりしているのだろう。あるいは何か問題を起こせば退学処分にでもするのだろうが、２人の手口は実に巧妙で、一切の証拠を残さなかった。最も、義務教育だから退学なんて無理に等しいのだけれど。
その２人は今は隣同士に座り、大声で笑ったりしている。担任の轟は既に無視していた。

　泰志の嫌いな人物は、この２人以外にもう１人いた。その男の名は常滑康樹（３２番）。出席番号が次なのが恨めしいくらい、たちの悪いキレ者だ。周りの人物を散々に利用して悪事を働き、自分の手は染めない。最も嫌いなタイプであった。ことさら成績が良くて、教師にはネコをかぶって、影でいじめなんかをしていた事を知っている。
いじめられた生徒は先生に泣きすがるのだが、教師はそのことを信じもせず、ついにその生徒は転校してしまった。今は欠番となっている、４３番　十和田雅彦。かつては彼もグループの一員だったのに。

以来、泰志は常滑を憎んでいた。

「ところでさ、何だったっけ？　あのかっこいい最新型の銃のモデルガン♪」

　学力の低い（失礼だな）、でも場を和ませてくれる寅山が、泰志に聞いてきた。

「カジュ……なんとか２０００って奴か？　あれ、いいよなぁ。モデルガン売ってくれないかな……流石に実物は持ちたくも無いけどね。ははは♪」

「カジュアル２０００・オートマチック拳銃だよ。今年ミレニアムの記念に国内で作られた鋼製の銃、１２発まで弾を装着できて、撃鉄を引き起こす必要すらない、高性能の銃……だろ？」

「すげぇ～」

　幸弘が適当に言った後に、泰志が冷静に意見を述べる。実際、自分もこの銃には何か惹かれるものがあったのだ。それが何故だかは、わからなかったけど。

「俺は、アラバイダ社のマシンガンに興味を持った」

　前の席から、寺井の低い声がした。幸弘は身を乗り出して、寺井に質問をしていた。

「アラバイダ？　イングラムじゃないの？」

「アラバイダは最新式のモデルなんだよ。イングラムなんて地に伏せさせるくらいの威力だ。確か説明はイングラムＭ１０しかしていなかったな。でも、俺はその次のアラバイダに目を惹かれていたんだよ」

「へぇぇ……みんななんか惹かれてるね。僕は何を惹こうかなぁ……」

　根本的に意味がわかっていない幸弘を見て、寺井と２人でにやりと笑みを浮かべる。受験の年になってしまったからといって、決してグループ内の会話が減ることも無い。こんな平穏な日々が、泰志は大好きだった。

　そして、異変に気がついたのは、その５分後。

　気がつくとクラスメイト全員が寝ており、自分自身も猛烈な眠気に押されていた。

　そして、意識が薄れた。

　バスは埠頭に到着して、専守防衛軍の兵士がバスに乗り込む。“選手”達は意識のないまま、バスから降ろされた。
　港には大きな船が停泊していて、他に灯りはついていなかった。

　そう、全て順調だった。

【残り４２人】

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