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 大河幸弘(1番)は、いつもの仕草からは決して感じられないような真剣な顔をして、分校を出た。

 流石に、クラスのムードメーカーでいるわけにはいかなかった。何事も真剣に行動しなくてはならないのだ。確 か、リーダーの徳永泰志(31番)は自分に向って、言っていた。親指を下に向けて『南』と。そう、つまりこの島 の南で落ち合おうということだ。流石だぜ、リーダー。やる事が素早い。

幸弘は分校の影に身を隠して、地図を見ようとしたが、やめた。2分間隔で、生徒は出発する。つまり、多重山 俊也(2番)がすぐに出てきてもおかしくないのだ。まずはここから離れなくてはならない。

「ユキヒロ!」

唐突に自分を呼ぶ声がして、幸弘は身構えた。だが、茂みの中から覗いている顔を見て、安堵した。

「寿か……。何してるんだ、そんなとこで?」

そこから覗いている男、寅山 寿(41番)に幸弘は淡々と告げた。そうだ、考えてみれば、寿と自分は間の鳥本 賢介(42番)を挟んでいるだけだったのだ。ほんの少し、自分が落ち着いているのがわかった。
出てきた寿を連れて、幸弘は歩いた。しばらく歩いて、地図でいうH=5に位置する中規模の民家に入った。正 確に言えば、その家の庭に腰を下ろしたということだろうか。

「ユキヒロ、どうしたんだよ? ヤスシとか、タカシとか待たないの?」

黙ってついてきた寿が、初めて声を出した。
だが、寿も状況を飲み込んでいるのだろう。本当に微かな声で、言った。

「泰志は俺達に伝言……してくれたよ。南、で待っていろってね」

「へぇ! 南……かぁ。じゃ、I=7でみんな、集合するんだね?」

寿は自分の地図を見ながらそう述べた。距離はここからそう遠くは無い。

「そうだ」

短く、返事をした。

「でもさ、なんでユキヒロはここにきたの? ここ、集合場所じゃないじゃんか。まさかとは思うけどさ、泰志を信じ てないわけじゃないよね?」

「当たり前だろ。信じてるよ、俺は泰志を。だけど、自分の武器が何だかもわからないようじゃ駄目だろ。誰かに 襲撃でもされてみろ。自分達がしっかりしないと駄目なんだ」

そう言いつつ、幸弘は自分のデイッパックを開いて、あさり始めた。

「ユキヒロ……俺の武器……」

途中で寿が静かな声で言った。

「最悪だ……なんだよ? コレ……取っ手付きスコップ? どうしよう……」

その落胆振りの声の方を向くと、そこには小さなスコップを握った寿がいた。同感だ。一体それで、何をしようと いうのか。落とし穴でも掘れというのか? この分じゃ自分の武器も期待できそうに無いな……と、あさり始めた 自分の手に、ゴツゴツとした感触。取り出して、うめいた。

「これは……あそこで見た……」

 幸弘の手には、特別授業で展示されていた、コルト・ガバメント8ミリ口径が握られていた。ずっしりとした感 触。更にデイパックの中には、弾が大量に入った箱がついていた。

「ユキヒロ……それ……」

「コルト・ガバメント……銃だよ……本物の……!」

 大当たりだ。これで、自分の身を守らなくてはならないなんて……!

「行こう。南の端にいよう。多分、高志も元道も一緒に来るはずだ。晴行も……」

「でも、ヤスシは凄く遅くなるね。最後から3番目だもんね」

「そうだな。もう少し出発の順番が違ったら、俺に銃が来ていたかどうかはわからないけどな。まぁ……行こう」

 ゆっくりと家の影を伝って、幸弘たちは南へと向っていった。
 夜風は寒かった。



【残り38人】




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