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 結局、宏は10分ほどで意識が戻った。
 正則は宏に自分が今まで何処にいたのかを話していた。

「お前、さっき錯乱して俺を襲ってきたんだぞ。見ろよ、この制服」

 正則は自分の制服に空いた穴を指差していった。そこからはごわごわしたものがはみ出していた。

「本当に、ゴメン。俺……友永の……死体見て……さ」

「あぁ……友永の死体……か。もう、やる気になった奴がいるんだよな……。でもさ、なんであいつ、あんな所に いたんだ?」

 確かに正則は、その事を疑問に感じていた。最も、自分は最初は友永武の隠れた茂みとは正反対のところに いたので、宏に会うまでは気がつきもしなかったのだが。

「ま、いっか。気にしてもしょうがないさ。今は、津崎と筒山、そして天道をここで掴まえればいいんだよ」

別に良くは無かったのだが、対して友永武とは付き合いも無かったし……ぞっとするが、出発前から酷い死体を 3つも見ていたものだから、それに比べればマシな方だった。
それに、死体のことで話したくなかった。もとい、話すと再び気の弱い宏が錯乱でもしたら困るのだ。

「それで……今は、誰が出てきたの?」

「さっき……月島が出て行ったんだ。そろそろ、九十九が出てくる」

本当は他にも仲間にしたい奴がいた。だが、相手が自分を信じてくれているかはわからない。下手をしたら結果 として自分は死んでしまうのだ。まだ、いまいち死ぬということがどのようなことかはわからなかったのだけれ ど。
とりあえず、いつものグループで集まって、これからどうするかを検討しなくてはならなかった。しかし、宏のよう に襲ってくる人物もいるかもしれないのだ。油断は出来ない。
考えているうちに、目の前を小走りで走っていく九十九大輔(15番)が見えた。あいつの顔を見るのもこれで最 期かもしれないと思うと、寂しくなってきた。



 そうだ、これはプログラムの最中なんだ。

 自ら非道にならなきゃ、生きる事なんて出来ない。



「次……だね」

 正則は静かに頷いた。次に出てくるのがグループの1人、津崎 修(16番)だ。
続いてあまり素行のよくない2人組みの堤 洋平(17番)と綱嶋裕太(19番)に挟まれて、筒山光次郎(18 番)が。
そして随分と離れているが、天道 剛(26番)が出てくる。

あまりにも離れているために、剛にはもしもの時には前もって伝言しておいた。(徳永泰志がそうしたように)口 パクで『家』と言い、そして手で家の形をとった。剛も深々と頷いた。
ただ何処の家かは詳しく言えなかった。だがまぁ1番近い民家に来ると思うので、大丈夫だろうとふんだ。

まずは、津崎修だ。

「そろそろ2分だ」

手首にはめた政府支給の腕時計を見て、正則は静かに呟いた。隣で宏が頷くのを感じ取った。
バタバタという足音が聞こえる。


 津崎だ。


2人は茂みからそっと名前を読んだ。

「修!」

 思いがけない方向からの突然の声に、津崎は肩を一瞬震わせて、おずおずと振り向いた。だが……

「…っ!!」

 津崎は走り出した。校門へ向って。



 なんだよ、あいつ!

 声掛けてやったのに……!



「待てよ……!」

 2人は校門のところまで走って、津崎を捕まえた。肩を握ると、津崎はむりやり振りほどき、振り向いた。
 泣いていた。

「……お、お前らなんか……信用できるか! みんな敵なんだぞ! 畜生!」

 それだけ言い残して、津崎は走り去っていった。呆然と2人は立ち尽くしていたが、2分のインターバルがあっ たので、とりあえず校門の脇の茂みに隠れた。もう元の場所へ行く時間は無かった。

「畜生……なんだよ、あいつ……! 俺達を信用しないのかよ……!」

宏が悔しそうに言った。お前も錯乱していただろうと言いたかったが、こらえた。

「津崎はその程度の男だったって思えばいいさ。それよりも、堤がやばい。俺はあんな奴に見つかりたくないか らな……じっとしてろよ」

「わかった……」

「もしかするとあいつ……綱嶋を待つかもしれないな……。そしたら筒山はどうする?」

「……運に任せようよ……」

 筒山がかわいそうになった。あの不良に席を挟まれて、いつも辛かっただろうに。
 玄関から、おぼろげに人影が見え始めた。2人は息を潜めた。



【残り38人】




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