16

 G=4に位置する家に隠れている、竹崎正則(4番)と種村 宏(7番)は、ひたすら時が経つのを待っていた。

「そろそろ……照屋が出てくる頃だよな……」

 あれから、10分近く経っていた。10分……しかし、もの凄く永い時だった。沈黙……。
 照屋宗治(25番)の次が天道 剛(26番)だ。ひょっとすると、既に出発しているかもしれない。

「筒山が……死んで……12分後に照屋だよな……でも、ここの家に来るまでに……少し時間を掛けたから… …」

 10分経った時を、30分ぐらいに勘違いしてしまったくらい、時間感覚が麻痺していた。だから、本当は少しし かこの家に入るのに時間はかからなかったのかもしれない。だけど……自分達にとっては永く感じられた。考え ても混乱するだけなので、もうやめてはいたが。

「本当に……天道来るかなぁ……」

「こればっかりはもう運に頼るしかないさ」

 再び沈黙。永い沈黙に感じられるのは、もしかしたら単に部屋が暗い……闇だからか。それとも……目の前 で筒山が死んだことによって時を感じる能力が鈍っただけなのか……。実際には1分も経っていないのだが、チ ャットでリロードしてもなかなか発言がこないようなもの……永く感じるものよりも酷い。

天道は本当にここがわかるのだろうか。




 天道剛は、分校を出ると、地図を見た。どうやら民家が青い点で表示されているらしいが、竹崎が指示した 『家』とは、一体何処のことだろうか?
一応竹崎とは小学校からの付き合いもあったし、暗号ごっこなんてものもやっていた覚えがある。そのときいつ も感じていた事だが、推理するときには深く考えてはいけない。つまり『家』……これを一般常識的に考えると 何処の家なのだろうか、よく考えてみた。
まず、G=3の家は除外した。ここは、あの門並とかいう奴がいった通り、(あとで自分でも計算したのだが)午 前6時丁度に禁止エリアとやらになる。そのようなところにいたい奴なんていないだろう。ことに、あの手西の死 に様を見てしまったあとは。
地図をもう一度見てみたものの、(もちろん茂みの影で、だ。広い道端で堂々と読んでいたら、気がついたら死 んでいたということにもなりかねない)どうやら民家はG=2、H=3、G=4にもあることがわかった。たいした数 ではないし、一つずつ探すのはさほど難しいことではないと思ったが、誰かが(竹崎以外のクラスメイト)この中 の家に隠れてていることも考えられる。要点を絞った方が得策だと思った。
こういうとき、相手の気持ちになって考えればいいのだ。自分達が隠れるのは、なるべく……基本的には近い 場所。そこに隠れるだろう。それで、G=3に最も隣接している家は……と、G=4に位置する青い点……だ。お そらく……竹崎ならここにいる。十中八九……いる……!

 改めてデイパックの中から出てきた拳銃(回転六口径1028式の、大型試作拳銃だ)を握り締めて、G=3か らコンパスを握り締め、『東』へ向った。この拳銃は刑事ドラマなんかでよく見るタイプのもので、弾を6発詰める ことができる。何か友達から聞いた『ろしあんるーれっと』なる遊びも、きっとこの拳銃でやっているのだろう。多 分、『武器』の中では当たりの部類だ。
目的地の家へは慎重に歩いても5分ほどで着いてしまったが、鍵がかかっていた。先客がいるのかと期待しな がらノックする。鍵穴から、特徴的なぎょろ目が見えた。そして――



 カチャリ。



鍵が開いた。急いで中に入って、閉めた。

「天道……!」

目の前に、親しき友がいた。
もちろん……既に筒山の変わり果てた姿は分校の外で見たが。

「無事でよかった……!」

そう言って安心したものの、何かが足りない事に気付き、それが津崎 修(16番)だとわかった。

「津崎は……合流しなかったのか?」

「あいつは……逃げたよ。筒山……が殺された瞬間も……俺達は見たんだ……」

がんと殴られたような衝撃がきたが、それでも、3人は行動を共にできるのだ。ただ、それだけで充分だった。

「でも、ここはちょっと目立ちすぎてるよ。どこか……移動できないか?」

それは思っていたのだ。要塞としては木造だから頼りにならない。火でもつけられたら逃げ場がない。おまけ に、禁止エリアに限りなく近いのだ。逃げる場所は限られている。

「……そうか。でもこれから明るくなっていく。移動は……暗い時にしよう」

「じゃあ……ひとまず予定行動開始時刻は12時間後だな。それまで……休息を取ろう。俺もう、疲れた」

 夜明けが始まりかけた。



【残り37人】




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