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 I=7に位置する最南端。時刻は午前5時30分を過ぎた。夜明けが始まり、南に向っている海岸の左手から、 日差しがうっすらと見え始めてきた。小さな島だ。左手彼方にはまた岩場が続き、そして海になる。そこまでい けば日の出も見れたのだろうが、無論そのようなことをすることは命がけなのでやめておいた。

大河幸弘(1番)はコルト・ガバメントをゆっくりとまわしながら、同じように岩場の影でうつらうつらとしている筑後 高志(10番)をふと見た。勉強熱心な高志は、流石に疲れが出たのだろう、首を垂らしては起き、また首を垂ら しては起き……をさっきから繰り返していた。
岩場から海をぼーっと眺めているのは千代崎元道(12番)で、哀愁がただよっていた。この世に別れでも述べ ているのだろうか。今までの元道なら(もっとも、その今、が戻ってくる可能性は限りなく低いのだが)徹夜も平 気、元気な男子生徒だったはずなのに。プログラムに巻き込まれるということですっかりと人が変わってしまっ た。
かくいう自分も、いつもの調子者の皮を脱いで真面目になったことにより、合流した当初はみんな困惑していた が、3年も付き合ってきた仲だ。すぐに慣れてしまった。
隣には寅山 寿(41番)がいる。取って付きスコップなんていう武器なのかどうかさえわからないような武器を 支給された彼は、手に出来ていた水ぶくれを弄りまわしていた。武器の中では今のところは自分の拳銃が1番 当たりの部類だったらしい。鈍器やら毒薬やらも役には立つのかもしれないが、戦闘面では銃器が1番頼りに なるはずだった。

「そろそろ……寺井が来てもいい頃だよな」

 寺井晴行(24番)は既に出発しているはずだ。時間が正確ならば、あと6分ほどで、リーダーの徳永泰志(3 1番)も出発するはずだった。ここまでくるのに30分もあれば十分だ。時間的に余裕をみても、既に到着してお かしくない時刻だった。だが……未だにこない。来るまでに何かあったのか? 先程聴こえた銃声のときには、 まだ晴行は出発していないはずだ。よもや殺されているということはあるまい。



 ぱぱぱ……ぱぱ……



そう考えた瞬間、唐突に銃声がした。



 ぱぱ……ぱぱぱぱぱ……



当然頭を伏せて、岩陰から周りを見渡した。襲撃者か? いや……でも寺井かもしれない……、そうだ……きっ と、まだ岩陰に隠れているのが俺たちだということがわからないだけだ。誰かわからないから……撃っているだ けだ……!

「寺井か!? 俺達だ! 仲間だよ!」

同じことを考えていたのだろう。元道が岩陰からのっそりと顔を出していた。だが……



 ぱぱぱぱぱ……



「元道!?」

岩陰から顔を出さなくても見えた。元道が……後ろに吹っ飛んでいた。いや……元道かどうかもわからない。顔 面だけ出して顔面だけに弾が当たったのだろう。既に顔が半分ほど潰れていた。そして……黒から茶色っぽい 色に変わった岩の上に、赤い塗料が垂らされていた。

「おい……! ハルユキなんだろ!? ヒサシだよ! 仲間だよ……撃たなくていいよ……!」

隣にいた寿が飛び出ていって、しかしぱぱぱ……ぱぱ……という銃声。

「ぎゃむっっ!!」

奇妙な叫び声がして、恐らく寿も餌食になってしまったのだろう。教室で嗅いだ血の匂いが……凄まじくなっ た。何かがおかしい……そんな感じがさえぎった。



 彼は、本当に寺井なのか?

 まさか別の……! いや、そんなはずない!




 だって、彼は仲間なのだから。






 ぱぱぱぱ……ぱぱぱ……






容赦ない銃撃に自分の隣の岩が削れて、襲撃者の顔がはっきりと見えた。
まぎれもなく……寺井晴行だった。







 嘘だろ?







「寺井! 何やってるんだ! よせっ!!」



高志にも顔が見えたのだろう。叫んでいた。すると、どういうことだろうか……晴行は、なんとそちらへ向けて銃 ……アラバイダ9ミリ・サブマシンガンを乱射したのだ。あわてて高志が顔を下げる。





 くそ! 寺井の奴……俺達を裏切りやがった……!

 皆殺しにするつもりなのか!? それとも……狂っているのか?



どちらにしろこの騒ぎを静めなければならなかった。まずはあのマシンガンをどうにかしなければならなかった。



 撃てるのか? 寺井の銃を持つ右腕を……精確に狙えるか?

 はずしたら相手は、運が悪かったら死ぬぞ? お前は人殺しになるんだぞ!





 うるせぇ!



心の声に、心の声でなじった。




 そんなうかうかした事言ってられっかよ! 殺される前に説得しなきゃ駄目なんだ! 畜生!




 パァンッ!




軽い銃声がして、しかし寺井には当たらなかった。一瞬躊躇した寺井に向って、再び2発。だが、寺井も顔を下 げて、上手く避けた。同時にぱぱぱ……と音がして、腹の辺りに激痛がほとばしった。

「幸弘!」



 馬鹿……! 高志、俺を呼ぶな……! そしたらお前ま……で……!





 ぱぱぱぱ……





もう遅かった。目の前には腹に風穴の空いた寿の死体。左手の岩場にはゆっくりと崩れ落ちる高志の体が見え た。
要するに……自分以外、死んでいた。寺井晴行はマシンガンの銃口を幸弘の頭に向けて、言った。

「脱出するつもりなんだよな、泰志は。だけど、そんなことしたら一生犯罪者として逃げ回らなきゃならない」

まだ生きているということを知っているのだろう。幸弘は、それこそもうまともに体が動かず、黙って聞くしかなか った。

「俺はいやだ……そんな逃亡者として生きることは……嫌なんだ……! わかってくれ……だから俺は、支給 されたこのマシンガンで生き残って見せる」





 そんな……!


 そんなの……駄目だ。




幸弘は……最期の力を振り絞って首を横に振った。

「安心しろ。ここにも誰かがくるかもしれない。まだ泰志は生かしてやる。……不満そうだな。大丈夫だ……俺 が、お前達1人1人の事を全部覚えておいてやるよ。じゃあな」

そして……再びぱぱぱ……という音。幸弘の頭が1回揺れて、そして終わった。



   1番 大河 幸弘
  10番 筑後 高志
  12番 千代崎 元道
  41番 寅山 寿      死亡



【残り33人】




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