19

 目と目が合って、厚志は自前のカッターナイフを取り出した(まぁ護身用として持っていたものだが)。既に気 付かれている以上、ワイヤー線で絞殺するのはほぼ不可能と踏んだのだ。まぁ、健一の目に触れないように。

「よぉ、ナオモト君」

「僕は……ナオモトじゃないよ、タカモトだって言ってるじゃないか……」

気の弱い健一は、尚を『タカ』と呼ばずに『ナオ』と認識されて、そう呼ばれていた。当人は気にいらないらしく、 いつもそのように言い直していたのだが。

「でも……ナオモトだったらこんなことにはならなかったんだけどね……」

だが。初めてこれはその名前を肯定した。確かに、その名字なら3年6組になったはずだ。

「へぇ……初めて認識したのか。……ん? なんだ、その手に持っている奴?」

しかしそんなことよりも、今の厚志には健一が何を持っているかが気になっていた。もしかすると支給武器かも しれない。たとえそれが強力な武器だったとしても、気の弱い健一のことだ、人は殺せない。

「ちっちゃい……斧だよ。僕の支給武器だったんだ……」

斧……まぁ当たりの部類に入る武器だ。こいつはいい。じゃあ後はどうにかして健一をやっつけなくては。
厚志はゆっくりと健一に近寄っていった。当然、健一は後ずさる。

「なに? なんだよ?」

 ああ、俺の武器も言った方がいいな。
厚志はカッターナイフを密かに握り締め、デイパックからワイヤー線を取り出した。

「あ……ゴメンな。俺は別にやる気なわけじゃない。ほら……俺の武器、こんなワイヤーだぜ? 俺、1人じゃ怖 いからさ、一緒にいようよ、な?」

だが当然というべきか、健一の顔には恐怖が浮かんでいた。

「そんな……僕、月島君なんて信用できない……! ゴメン……」

その解答も当然頭に入っていた。要はいかに健一に近づけたか、だ。距離は3m。充分だ。

「そうか………よ!!」

カッターナイフを振るう。僅かに狙いがはずれ、顔をかすっただけだった。
その頬から血が出て、すぐに健一がそこをおさえた。今度こそ、はっきりと恐怖の顔が浮かんでいた。

「なにするんだよ! 月島!」

「なんだ? 俺はやる気じゃないぜ? お前に俺の痛みを味わってもらおうと思っているだけだ!」

再びカッターナイフを振るった。しかし、その前に健一はそのまま逃亡した。

「逃がすかよっ!」

厚志も追いかけた。体力の勝っている厚志はあっという間に間隔を縮め、ついには背中を切りつけた。
シャツが切れて、再び血が染めた。

「わぁぁぁっっっ!」

喚く健一に、とどめと顔を狙った時。





 ザシュッ!





突然の足の激痛。見ると血が噴出していた。
目の前には泣きじゃくった健一が、小振りのを持っていた。



 なんでだ?

 なんでこいつはまだこんなに体力がある?



「ひっく……! くそぅ……! 痛いよ……! 痛いよぉ!!」




 やばい。




逃げようとするが、足の怪我が酷くて動けなかった。
斧はまっすぐに腕に落ちて、そのまま腕の感覚が激痛と共に消えた。

「ぐぁぁっ!!」

「よくも……よくも! 痛いよ! このバカ野郎!! わぁぁぁぁああああ!!」

再び斧が迫ってきた。だがそれを避ける事もままならず、断末の悲鳴をあげた音と鋭い激痛を最後に、厚志の 生命維持装置は停止した。無論、厚志の首が吹っ飛び、凄まじい量の血が噴出しているのを彼自身は理解す ることは無かっただろう。

斧で厚志の首を切り落とした健一は、尚も泣きながら斧で厚志の体を滅多切りにした。健一は完全に切れてい た。

「どうせ……どうせみんなやる気なんだろ! チクショウ!」

 こうして月島厚志は、弱いと見た弱者に、あっさりと負けた。



  14番 月島 厚志  死亡



【残り32人】




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