21

「くそ……っ! ちくしょ……っ!」

 時刻は5時46分。場所はあと14分で禁止エリアになるG=3、それも分校前であった。
 戸田鉄平(33番)は、自分と階段の手すりを結び付けている手錠を強引に外そうと、必死にもがいていた。



 今からほんの5分前。
鉄平は一番最後に出発したので、すぐにエリアG=3を抜け出そうとしていた。なんせ、自分が出発してから20 分後に、ここは禁止エリアとなる。そして、教室で見たあの手西俊介(23番)と同様に、首輪が爆発してしまう のだ。

急いで校舎から出ると、階段下に誰かがいるのが見えた。


 誰だ?
 もうすぐ禁止エリアになるここに、一体誰が?


その人物は自分の方を向いた。鉄平は少し顔を強張らせたが、すぐに息をついた。自分より1つ前に出発した、 あの常滑康樹(32番)が1人佇んでいたのだった。
なんのことはない、いくら頭脳が良くて裏の顔を持っていたって、康樹は怖かったのだ。自分と合流しようと思っ ているだけなのだ。

だが、鉄平も徳永泰志と同じように、康樹のことは好きでなかった。
合流しろといわれても、無理をしてでも逃げただろう。

「戸田」

「なんだよ? お前……こんなとこにいて……」

すると康樹は自分に向って笑いかけ、こう言った。

「ちょっと、腕出してくれねぇか?」

「腕? いや、大丈夫だ。武器なんて持ってないさ」

いや、信用できない……というように、康樹は首を横に振った。
仕方なく、鉄平は両腕を前に出して、振るわせた。
突然康樹が胸元から何かを取り出して、鉄平の右手首を掴んだ。そして……一瞬のうちに金属音と共に自分 の体が拘束されているのがわかった。それが手錠であることに、そして自分と階段の手すりがつながれている ことを理解するのには、少し時間がかかったけれど。

そして、それが何を意味するのかも。

「何するんだ!?」

「は? お前のデイパック、あさらせてもらうぜ」

質問には答えずに、康樹は自分のデイパックを奪ってあさり始めた。片手では抵抗の術も無く、ただ黙ってみる ことしか出来なかった。
数秒後、康樹は右手で袋のような物を取り出して、鉄平の目の前で振って見せた。

血糊だとよ? はずれもいいとこだ。ほら、お前にやるよ」

そういって乱雑に放り投げると、水と食料を取り出して自分のデイパックに詰め、後ろを向いて歩き出した。

「おい!? 何処行くんだよ!?」

「何処って……このエリアの外さ。そうしないと俺が死んでしまうんでね」

 鉄平は何かが冷たくなるのを感じた。
 たらたらと、汗が流れ始める。

「……俺はどうなる?」

 汗が流れるのを感じながら、鉄平は康樹に尋ねた。
 康樹はいっそう嫌な笑みを浮かべ、言った。

「お前は死ぬさ。残り15分あまりの人生を楽しむんだな」

 なんともいえないような支配感に押され、脱力した鉄平を一目見て、そのまま康樹は走り去っていった。




 そしてあれから10分がたった。
相変わらず頑張って手すりごと外そうと考えたのだが、無駄だということに気がついた。だがしかし、やめるわけ にはいかなかった。もしかしたら、この手錠を外せるかもしれない、そう思って。

「はっ……はっ……」

吐息が洩れた。手首についている時計が59分を冷酷に指したとき、急激に首元が息苦しくなった。



 この首輪が……爆発しちゃう!

 そんなの……そんなのって!



「いやだ……いやだ……!」

手すりはびくともせずに、逆に自分の手首が青くなっていることに気がついた。青い手首についた時計は、無情 にも刻々と時を刻む。30秒を過ぎた。

「いやだ……いやだぁ……!!」

40秒を過ぎ、そして10秒前。
唐突に首輪が警告音を上げ、息苦しさはいっそう高まった。そして叫んだ。

「いやだぁぁぁぁぁああああああああ!!!!!」



 秒針が0を指した瞬間。





 軽い爆発音と共に、鉄平の意識は首諸共吹っ飛んだ。







“はーい、午前6時になりました!”

 門並の声が、最期に少しだけ、聞こえた。



  33番 戸田 鉄平  死亡



【残り31人】




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