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 ちきしょう! いてぇじゃねぇか!
 天道の野郎……ただじゃおかねぇぞ!!


団条大樹(9番)は今や怒り狂っていた。


 後少しで、興味を持っていた殺人が出来たのに、天道が邪魔しやがった!
 しかも……しかも僕の腕を……小指を奪いやがった……!

 絶対に、許さねぇぞ!


興味のある殺人を、この手で止めを刺すことをどうしても死ぬ前にしたかった。右手小指は素晴らしいほど痛か ったが、いや既に痛いという感覚も無いのだ。再び怒りが込み上げてきた。
走り回っているうちに、軽い広場に出た。大樹は少し立ち止まって、辺りを見回した。

「もうどうだっていいんだ……。人殺しさえ出来ればな……!」

辺りには誰もいなかった。広い野原に吹く風は、午前中ということもあってまだ涼しかった。
軽く深呼吸をして、少し落ち着くと、自分の足元に血が滴っているのを発見した。はっと気付いて後ろを振り向い てみると、来た道にも血痕が点々と付着していた。
ちっ、と軽く舌打ちをすると、その激しい痛みの根源を振り払った。


 ガサッ……


大樹は顔を上げた。風の音ではない。何かが掻き分けられる音だ。


 獲物か? それとも動物か?


後ろを振り向くと、そこにいたのは小動物ではなく、自分より拳1つ分くらい小さい童顔の棚瀬良介(6番)が立 っていた。棚瀬は自分の走ってきたほうからやってきた。つまり、自分の血痕を見つけてこちらの方へ駆けつけ てきたのだろう。再び、天道に対する怒りがでてきたが……

それはすぐにいい事なのだと感じた。ほら、獲物が目の前にきてくれたのだ。むしろ感謝しなくてはならない。
それに、相手は棚瀬だ。クラスのマスコット的存在で、力はあまりない。穏和な性格だからまさかこのゲームに 乗るなんて事はないだろう。

内心、大喜びだった。

「団条……! お前、どうしたんだよ? その手……誰かにやられたのか?」

「え? あ、うん。天道に襲われたんだ」

 事実は事実なのだが、流石に鶴岡雅史(21番)を襲っていたことは言えなかった。まずは信頼を持ってもらわ なきゃならないからな。

「大丈夫かよ……あ! 小指が無いじゃないか! さっきの銃声……お前、撃たれたのか?!」

気付かれた。別に嫌なことではないのだけれども、いい気持ちではなかった。

「別に……神経が無いから痛みは感じない。でもまぁ……撃たれたんだ」

「信じられない……天道はいい奴だと思っていたのに……!」

支給武器の両刃ナイフに、そっと左手をまわした。棚瀬は右手を見ていたので、左手の行動に気がついていな い。これはよくマジックのネタか何かで使われていたな。そういえば。

そして、大樹は軽く笑みを浮かべて言った。

「人間って、わからないものなんだよ。裏切られることもあるさ」

「それでも、僕にはなんで天道が君を襲ったのかがわからない……あいつは、絶対に何かが起こらない限り手 を下さないはずなのに……!」

棚瀬はどうしても理解できないようだった。まぁ、もともとの理由は自分にあるんだけどね。天道は結構クラスの 中でも信頼持たれてたみたいだし。

 それよりも、大樹はどうやって仕留めようかを考えていた。さっきみたいにいきなり馬乗りになれば、あっさりと 殺すことが出来るのだろうか。どちらにしろこの指じゃ器用なことは出来ない。その方法が、多分一番確実に思 えた。

「ねぇ、棚瀬。お前は何支給されたんだ?」

「へ? あ、僕は暗視スコープを支給されたけど……?!」


 ふん、もう遅いぜ。お前の、負けだ!


その質問をして、棚瀬が返事をしている間に、大樹は眼前まで迫って、そのまま飛びついた。なす術も無く棚瀬 は後頭部を強打して、うめいた。

「団条……! お前、何を……!」

大樹は両刃ナイフを抜き出した。棚瀬の顔に恐怖が張り付いていた。

「残念だったね。真相を言うよ。僕は鶴岡を襲ってたんだよ。そしたら天道に邪魔された。それだけのことさ」

しかし棚瀬は動じなかった。代わりに、唇をきゅっと結ぶと、突然大声を出した。

「つかもとー!!」



 何だ? なにをした?

 ま…さか……?



それが何を意味するのかがわかった瞬間、突然鈍い音がして、同時にその痛さに力が抜けた。手からナイフが こぼれ落ちるのがわかった。




 ゴッ! ゴッ!!





 そんな…そんな……!

 まさか、俺がこんなことで…死ぬ、なんて……。





鋭い痛みが何度か襲ってきた後、脳ががくんと揺れたような感覚を最後に、団条大樹は他界した。
そして、その大樹を殺害した人物。

「怪我ないか?! 良介!」

「サンキュー……塚本。助かったよ」

頭を何回も殴打され死亡した団条の後ろには、拳2つ分ほどの石を持った塚本大作(13番)が佇んでいた。

「お前とペア組んでいて、助かった」


 まさか棚瀬にペアがいるとは思っていなかった団条は、こうしてあっさりと死んだ。
 勿論団条は、自分が鶴岡雅史を殺していたという事実など、知る由も無かった。



  9番 団条 大樹  死亡



【残り24人】




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