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「おい、あそこに誰かいるぞ」

 考え事をしていたら、突然塚本がそう言った。
今塚本は支給された武器の双眼鏡を通して見ていて、どうやら広場の先のほうで何かを見つけたようだった。 ちなみに彼のズボンには、団条から奪った両刃ナイフが差し込んであった。自分は毛頭戦う気など無いし、体 力のある彼に持ってもらったほうがよさそうだと思ったので、そう頼んでおいたのだ。もっとも、彼は自分が頼ま ずとも武器を携帯するだろうなとは思っていたが。
塚本は無言で自分に双眼鏡を向けた。見ろということだろう。右手で受け取って、見てみた。
それでも大分先……ということは実際には150mから200mほどか。離して見ると、どうも2人の人間が見える ような気がした。もう一度見てみると、やっぱり2人だった。

「豊田と……あの髪型、長明だね」

視力は悪くない。それに豊田敬一(40番)はほとんど髪の毛を剃り込んでいてわかりやすかったし、逆に長明 晴喜(11番)はロングヘアーでわかりやすい。

「なにか……言い争いでもしているのかな……」

長明が、どうやら何かまくし立てているようだった。豊田は懸命に反論でもしているのだろうか、手を上下に振っ ていた。ふと、良介はあることに気がついた。

「危ない……」

「ん? 何が?」

「長明の奴、銃を手に持ってる……なんか喧嘩しているみたいだし、豊田、殺されるかもしれない」

 正直その危険性はある。
2人が自分達と同じように途中から一緒だったというわけではないのかもしれない。もかすると、たまたま出くわ して、お互いに疑心暗鬼になっているのかもしれなかった。

「争い事は御免だ、どうしよう……!」

「まぁ待て、ちょっと貸せ」

 塚本がそういうと、半ば双眼鏡を引っ手繰るように掴んで見た。
2〜3秒後、唸りながら双眼鏡を放すと、ゆっくりと呟いた。

「助けたいけど……俺達には武器が無い。ただ、あいつらも完全にやるきじゃないさ。やる気だったら、もうドン パチやってるはずだし……まぁ豊田の武器がはずれの可能性もあるな」

「じゃあ、説得しようよ……」

「おい……まさか、あいつらと合流する気じゃないだろうな? 俺は反対だぞ」

「いや、そうじゃないけど……」


 バン!


突然銃声が響き、鳥がけたたましく鳴きながら飛んでいく音が聞こえた。
そして、自分の頭の地がゆっくりと下がっていくのがわかった。

「まさか! 長明!」

双眼鏡をのぞいて、すぐに顔を離して言った。

「2人ともいない……!」

「くっ……! 行こう!」

2人は駆け出した。



 パァン……! バン!

 バン!



 パァン…!!



立て続けに異なる銃声が交錯する。銃撃戦だ! くそっ!
森の中だけに、200mは遠かった。だが、出来るだけ早く、早く速く走った。そして、やっと到着した時、そこに はただおぞましい光景が広がっているだけだった。

「ち…長明……!」

そこには長明晴喜の死体が転がっているだけで、何も無かった。
手には銀色の拳銃(スミスアンドウエスン)が握られていたが、顔の後頭部は砕け散っており、見るも無残な 『物』となっていた。そう、『者』ではなく、『物』になっていたのだ。

「いない……豊田が、いない……!」

そして、本来そこにいるはずの豊田敬一が、いなかった。すなわち。

「まさか……豊田が……」

「いや、待て」

だが突然思考停止を余儀なくされた。すぐ近く、10mほど先に、1人の男が(男しかいないのだが)銃を構えて ブルブルと立っていた。銃口からはまだ白い煙が出ていて、そして身長も同等の感じで。

「津崎……お前が殺したのか?!」

そこには津崎 修(16番)が立っていた。彼の持っている支給武器のベレッタM92Fは白い煙を立てていた。 撃った証拠だ。そして、撃った獲物は、そこに転がっている『物』しかない。

「ぼ……僕じゃない……! 長明が……先に僕を……!!」


 だが、この状況でまともな考え方が出来る者が果たしていようか。
 緊迫した空気が、辺りを駆け巡っていた。



  11番 長明 晴喜  死亡



【残り21人】




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