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 血生臭い匂いが、だんだんと強くなってきた。

もう、良介は目の前で起こっている事が、この世のものとは思えなかった。そりゃあたしかに人殺しの瞬間を以 前にも目撃していた。だが、それは仕方のないことだったのだ。いわゆる正当防衛? だが、これは違う。


 立派な、人殺しだ。


「じゃ、じゃあ……お前じゃなきゃ、だれが殺したんだよ!」

塚本が怒鳴る。それに対して、目の前にいる津崎はベレッタを持った右手と、左手を両耳に当てて、何かを呟い ていた。それはか細かったが、一応聞こえた。

「長明が……僕を……撃ってきたんだよ……!」

「だから殺したって言うのか?!」

「違う……! 僕は、死にたくないから……だから殺したんだ……!」

それは何か悪夢を見ているような、どうも良介は理解しがたかった。

 いつもは何か冗談を言いながら笑っていて、爽やかだった津崎。それが、今は何か気でも狂ったように……も しかして、本当に狂ってしまっているのか?
ありえない! とは言い切れない。現に、団条大樹(9番)だって自分を殺そうとしたではないか。

「この野郎! お前も……要するにやる気なんだな!」

 瞬間、なにか嫌なことがフラッシュバックした。
時たまに、そんな感覚を良介は感じていた。全てがセピア色の背景で、その光景が明確に感じられること。

塚本が長明の死体に向って走る。


 駄目だ! 銃を取っちゃ!


だがその言葉がでることは無く、長明のスミスアンドウエスンを取った瞬間、津崎のベレッタから熱々の鉛が吐 き出されて。

 そこで感覚が戻された。

気がついたときには、目の前で起きていた光景は、先程とまったく同じ。

「待て! 行っちゃ駄目だ!!」

既にスタートダッシュを決めていた塚本の元へ、良介もまた素晴らしい速さで追いついていった。
津崎もその予想外の動きに驚いたのだろう、少しかたまっていた。

 チャンスは、今しかなかった。

「危ないっ…!!」



 パァン!



 塚本が長明のスミスアンドウエスンを取った瞬間追いついた良介は、自ら共にタックルし、そのまま2人とも5 mほど転がった。同時に、良介の左二の腕に鋭い痛みが込み上げた。熱が一気に伝わる。



 撃たれた……!!



だが止まるわけには行かなかった。転がった部分に長明のデイパックが傍にあり取ろうかどうか迷ったが、結 局何かの箱を1個引っつかむとそのまま駆け出した。


 津崎修は、やる気だ。少しでも、あいつの役に立ちそうな物は奪っておかなければならない。


「急げ! 塚本!!」

二の腕の痛みは酷かったが、それでも良介は塚本の手を引いて走った。後ろから銃声が2発ほど聞こえて、同 時に塚本の体が2度ほど大きく揺れたが、2人は走りつづけた。




 すっかり2人の姿が見えなくなると、津崎修は軽く舌打ちをした。
やる気になっている奴を逃してしまったことに、彼はいらだっていた。


 そうさ、先制攻撃をしてきたのは向こうなんだ。だから、別にやり返したっていいだろ?


ふと、後ろの茂みが動き、振り向いた。その人物があわてて逃げるのを見て、銃を上げ……だが下ろした。別 に、自分に危害をあてないならいいのだ。自分はやる気のつもりは毛頭無いのだから。
改めて銃をしまおうと思い、ふと見ると弾切れになっていた。危ない、と思い、あわてて銃弾を装着し、ふと長明 のデイパックをあさった。そこにあるはずのものを探す。


 だが、何故か弾の入った箱は、入っていなかった。



【残り21人】




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