47

 土井佑作(27番)はただ脅えながら山道を歩いていた。

数時間前、友達だと思っていた飛田信行(37番)に銃を向けられてから、彼は誰も信用することが出来なくなっ ていたといっても過言ではない。
友達に信用できないといわれたのだから、友達でない者が信用できるはずが無い、そう彼は考えていたのであ る。
彼に支給された武器は技工部等でよく使われているような何の変哲も無いのこぎり1本のみ。果たしてこれが 当たり武器なのかはずれ武器なのか、それは使い方次第ともいえる。

 さて、時刻は午後2時を過ぎた頃、太陽がまだまだ高い位置にある。
佑作はただひたすらに山道を歩いていた。別にそこに何かがあるというわけではない。彼自身が何かを探して いるというわけでもない。

 彼は、生き残る気など毛頭無かったのだ。

全ては友達に銃を向けられて、所詮自分は不必要なのだと考え始めたことから始まった。
見てもわかるように、佑作はクラスの中でも跳びぬけてマイナス思考、ブラックな人物で有名だった。クラスでも あまり目立たない存在で、成績も中間層といったところだろうか。
普段から無口な彼に話し掛けるものなどいなくて、彼はだんだんと孤独の道を突き進むようになった。

だがある日、クラスの間で不穏な噂がたちはじめた。たまたま自分の隣に座っていた飛田の親が、実は反政府 組織にかかわっていたというのだ。そのせいで彼には父親がいないとか云々。
別に佑作はこの国のことを快くは思ってもいなかったけれども、別に仕方ないことなんじゃないかとも思ってい た。この国に不満があるのなら革命でも起こせばいいのだし、傷つきたくないのなら一生震えながらこの国です ごせばいい。もう、この国はそれほど腐っていたのだから。

 そんな事を考えながらも、佑作は彼といつもどおりに話していた。どういうわけかクラスメイトは飛田と話すのを 極力避けていたようだし、飛田もそういう連中を気にも留めていなかった。
そんなある日、裏路地で不良の連中に絡まれて、恐喝されたあげクリンチされたことがあった。まぁ痛いことに はなれていたし、そいつらも本気でないと思えた。だが、そこに飛田が通りかかったのだ。気がつくと、不良の 連中は皆地にひれ伏していた。


 すごい。


ただそれだけだった。そんな時から、いつか自分は飛田に恩を返したいと思っていたのだ。


 だが。


今は既にそんなことの言える状況ではなかった。
偶然にも出会えた飛田からは見放され、挙句の果てには銃まで突きつけられて、もうどうでも良くなっていた。
別に生き残ったとしてもこれからの人生が楽しくなるとは思えなかったし、来世で生まれ変わった時にはこんな プログラムの無い平和な世の中にでも行きたかったからだ。
だから彼は気晴らしに散歩をしていた。ここで狙撃されても構わなかった。

 ふと、足を止めた。

進行方向に、何かが転がっていた。血だまりのような物が周りに広がっている。



 ああ、こいつは殺されたんだな、可哀想に。

 一応誰が死んだのかくらいは確認しておかなきゃな。



彼はもうどうでも良かった。既にクラスメイトの半分がこの島に転がっているのだ。別に出会ったとしても驚くべき ことではない。ただ、誰が死んだのかくらいは知りたかった。もしかすると放送後に殺された者かもしれない。
彼はその死体を見た。
いや、正確には見ようとしたのだ。だが、見ることは出来なかった。



 激しい爆発音と共に、彼は砕け散った。



殿村竜二(36番)の周りに仕掛けられた、綱嶋裕太(19番)が仕掛けた地雷を踏んだということは、彼自身知 らなかったに違いない。



 果たして彼に死んだという自覚はあるのだろうか。
 それは、誰も知らない。



  27番 土井 佑作  死亡



【残り17人】




 Prev / Next / Top