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 堂本が完全に壊れていた頃、飛田信行(37番)はまだ歩きつづけていた。

エリアE=1から今度はエリアF=7へ行く途中で、ふとエリアB=8が気になった。まだ禁止エリアの心配の無 いこの場所にも、誰かいるのではないかと思って。
しばらく、土井佑作(27番)と別れてからは誰とも会っていなかった。それは一応良いことなのだが、微妙なこと だった。やる気になっている人物に制裁を下すのが自分の役目。だが、友永 武(39番)を殺害してからはやる 気になっている人物に出会えていない。こうしている間にも、どんどんクラスメイトが死んでいっているのだ。


 ガササッ


突然近くの茂みが破れて、1人の男子生徒が飛び出してきた。咄嗟にルガーP85を取り出しかけて……その 生徒が照屋宗治(25番)だとわかった。

「照屋!」

照屋は呼び止められて、尻餅をついた。

「あひっ……あひっ……! と、飛田……やめてくれ……殺さないでくれぇっ!」


 殺さないでくれ? 精神錯乱状態なのか?


そんな事を感じながらも、飛田は照屋に質問を投げかけた。
何故なら、情報は貴重だったし、照屋は錯乱していてとても人が殺せるような状態ではなかったからだ。

「何があった?」

「堂本が……狂って……積井を……! だぁぁああっっ!!」

それだけ言うと、照屋自身も狂ったように走り去ってしまった。
その姿を見届けて、飛田は堂本文男(29番)が積井尚人(20番)を襲ったのだろうと考えた。彼、照屋の言うこ とが本当ならば、自分は堂本を殺さなくてはならない。


 ここに来て、良かった。


ただ、照屋ももう生きていけないな、と少しだけ感傷に浸った。





 その堂本は、積井の首を髪の毛を掴んで持ち上げていた。
臆病な彼は消えて、逆に狂喜の彼が表には出ていた。



 興奮する、すごい快感だ。面白い!



「堂本、いるのか?」

その声が聞こえた瞬間、彼自身思っていた。また、玩具が来た、と。





 飛田はその光景を見て思わずうめいた。覚悟はしていたものの、ここまで酷く狂っているとは考えもつかなか った。


 駄目だ……もうこいつは再起不能だ……


飛田は奥歯をグッとかみしめると、ルガーP85を堂本に向けて構え、そして躊躇うことなく引き金を絞った。


 パン!


思えば、自分は初めて銃を撃った。反動って、結構大きいんだな、そんな事を妙に冷静に考えていた。
額に風穴を空けた堂本が生きていられるはずが無く、積井の首を掴んだまま彼も永遠の眠りについた。

「まだまだ……やる気になっている奴はいるはずだ……!」


 彼自身も充分やる気であると政府側に分類されていることは知らない。
 飛田は静かにその家から出ると、本来向うべきF=7へ足を走らせた。



 いつの間にか、雨が降り始めていた。



  29番 堂本 文男  死亡



【残り15人】




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