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 目の前で、人が殺されるのを時津は初めて見た。
両親から、教えられるたくさんの項目の中に、次のようなものが絶対にあったはずだ。

 人を殺しちゃいけないよ、と。

だが、人は何故簡単に「死ね」などと言えるのだろうか? それはもう命令ではなくて、単なる罵声関係の言葉 になってしまったのだろうか?

豊田敬一が目の前で殺され、彼の心の中で何かが変わった。

「お前、殺すことは無かっただろうがよ」

「ち……ちち違う! 僕は悪くないっ!! み……見てただろ? ほら、豊田が僕を襲っているところを……!」

時津はゆっくりとハイスタンダード22口径2連発デリンジャーを持ち上げた。津崎の顔が強張る。距離は15m ……あいつの命を、確実に奪えるか?
隣にいる徳永が何かを呟いている。だが、耳には届かなかった。

「そ、そうか……お前も、やる気なんだな?! やってやるよ……、僕を襲おうとした奴は……こうしてや る!!」

津崎がベレッタを持ち上げようとした瞬間、反射的に人差し指が動いた。勿論それは引き金を引き、乾いた反動 が時津を襲う。一方津崎はそのまま後ろに飛んでいた。そして、ゆっくりと地面に転がった。


 殺ってしまった。


「時津……お前、何殺してんだよ?」



 殺した? 俺が?

 嘘だ……人がこんなに簡単に死ぬはずが無い。



だが、津崎はピクリとも動かなかった。血の匂いが流れてくる。

「殺したのか? 俺が……」

「たしかにあいつは殺人をしてきた……だけど、でも……俺も人のこと言えないな」

「徳永?」

時津はまだ手に残る痺れを感じながら、罪悪感にとらわれていた。両親の言い付けを、破ってしまった。もう… …自分は生きることが許されない、と。

彼の両親はある宗教に所属していた。生きることを何よりも大切に思い、命あるもの全てを尊い物だと説き示し ていた。その為プログラムの反対運動もしていて、幹部クラスだった両親は、ある日殺されていた。終業式の日 だった。
その日から、少年時津はその両親の言い付けを執拗に守りはじめた。徳永泰志を諭したのもその為。それはあ る意味おせっかいかもしれない。だが、決して不必要な物ではなかった。

「実は……俺、もう既にクラスメイトを1人」

その言葉を聞いている中途、突然乾いた銃声がした。同時に彼自身の腹部に激痛が走り、その痛みに耐え切 れず思わず地面に倒れてしまった。
そして見た。殺したはずの津崎が、冷酷な眼差しでこちらに立っていた。そして、一瞬にやっと笑みをその顔に 浮かべると、足早に去っていってしまった。

「津崎?! なんで……」

話の途中で起きたことに慌てた徳永が焦って声を出した。そして追いかけようとしたが、既にいなかったのだろ う。すぐに戻ってきて自分の体に手を伸ばしていた。



 腹の感覚が無かった。



「俺……どうなってる?」

「何か……飛び出てるよ……! もう、駄目だ……」

その『何か』を見ようかとも思ったが、やめておいた。そして、急速に眠くなってきた。



 ああ、これで俺も死ぬんだな。



不思議と怖くは無かった。

「時津……なにか、言い残すことは?」

声を出そうとしたが、既にそんな力も残っていなかった。




 誰モ殺サナクテ、良カッタ……




その意識を思った瞬間、彼の思考回路は停止した。
無論、そのあと自分の名を叫ぶ声が聞こえたことなど、知る由も無かったに違いない。



  30番 時津 優  死亡



【残り11人】





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