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 飛田信行(37番)は、突然近くの茂みが割れる音を聞いた。
すぐにズボンに差し込んでいたルガーP85を抜き出して、撃鉄を起こして構えたものの、それが棚瀬良介(6 番)だと分かり、銃を下ろした。

「なんで……銃を下ろすんだ……!」

肩で息をしながら、棚瀬が飛田に聞いた。
よく見ると、彼のズボンにも拳銃が差し込んであったのだが、彼はそれを抜き出す動作など一切しなかった。

「俺はお前が人殺しでないと思うからだ……これでも他人は信用するものでね」

その言葉に棚瀬は首を振った。

「一緒にいた立川も同じ事を言っていたよ……なんだ? そんなに僕は……特別なのか…?」


 どういうことだ?


立川も言った……ということは、彼は立川朋彦(5番)と共にいたことになる。とりあえず、質問の答えの前に、 情報だけは貰っておいた方がいいかもしれない。

「棚瀬。お前、立川と一緒だったのか?」

「ああ……ついさっきまでな……銃声、聴こえたろ? あれ、寺井なんだ……信じられないけど。それで、あい つが囮になるって……僕を逃がしてくれた……。だから多分もう、あいつは……」


 寺井晴行(24番)がやる気になっている。
 やる気の人間だ、俺は殺さなくてはならない。


「僕……わからないんだ……! あいつが最期に言った言葉……『みんなお前の事気に入っていた』って……」

「そうか。寺井はこっちの方角にいることは間違いないな」

その言葉を聞き流し、今はただ、己の正義だけで行動しようと決めた。
ただ、棚瀬は一言、わからないと述べた。

「こっちの方角にいることは間違いないよ。ただ、立川の方を追いかけていったんだ、寺井は。だから……詳し い位置までは……わからない。……行く気なの?」

「そうだ。俺の役目はやる気になっているクラスメイトを殺すことだ」

その言葉を口にした瞬間、棚瀬が後ずさりした。
その顔は蒼白になっていて、今にも殺されそうな顔をしている。そこまで自分を恐れているのだろうか。

「安心しろ。殺すのはやる気になっている奴だけだ、お前は殺したりしない」

だから、彼は今までに2人。友永 武(39番)と堂本文男(29番)を殺した。どちらもクラスメイトを殺そうとやる 気になっていた。



 待ってろよ、寺井。

 父親の無念を晴らすために、お前もあの世に逝かせてやる。



「最後に一つ言うよ。お前が気に入られている理由……それは人徳だろうな」

それだけ言うと、飛田は一目散に駆けて行った。


 1人取り残された棚瀬は、黙ったまま、再びその言葉の意味を探し始め、そして歩きはじめた。



【残り10人】





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