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 月も大分あがってきた。

飛田はひたすら走っていたのをやめて、歩きはじめた。常にどの位置から狙撃されても大丈夫なように、木の幹 や家の壁などに身を寄せて歩いていた。
ルガーP85の撃鉄も起こしっぱなしにして、何時襲われても万全の状態でいた。


 この近くに、寺井がいるはずだ。


さて、その状態が続いて30分後、それはもう彼にとっては2時間くらい経過したといっても過言でない時が過ぎ た後、彼は1人の人間を見つけた。
その人間は既に死体となっていた。別にこれだけのクラスメイトが消えていっているのだ。死体なんていくらでも 転がっていてもおかしくは無かったが、問題はその人物だった。

 立川朋彦(5番)だったのだ。

つまり、この近くで寺井は立川にとどめを指したのだ。随分前に聴こえたあのマシンガン野郎、それが多分寺井 なのだろう。
改めて再確認。これは殺し合いだ。当然、負けはすなわち死ぬことを意味する。父は負けたのだ。やる気になっ ている生徒に、救世主だったのに。結局そいつのせいで大量の生徒が死んでしまった。本来なら、生き残れる はずだった……脱出できるはずだった生徒の命を、やる気になっている生徒1人のせいで殺されたのだ。


 だから、自分は絶対に負けられない。
 負けることなど、許されるはずが無かった。



 大丈夫だ、勝てる筈だ。



近くの茂みがガサッ、と動いた。
瞬間、悪寒が走り、本能的に右側へ飛んでいた。



 ぱらららら……



直後、彼のいた場所をマシンガンから吐き出された銃弾が何発も貫いていた。
やっと現れたのだ、寺井が。

今、自分の手持ち武器はこのルガーP85の他、最初に支給されたフライパン、堂本に支給されたサーベル、積 井の物だったロープ……これは使えない。使えるとしたらサーベルだけだ。
それに引き換え向こうはマシンガンの他に単発の銃も持っているのだろう。圧倒的に不利な状況に違いなかっ た。

でも。



 やらなければならないのだ……!

 俺がやらなきゃ誰がやる! 自分の代わりなど、誰もいないのだ!





 ぱらららら……!





今度は茂みの中に撃ってきた。慌てて移動する時、左手が無意識に持ち上がった。同時に痛みが込み上げ た、撃たれたのだ。だが飛田は勢いを止めなかった。


 パァン!


単発の銃声。だが弾は大きく軌道をそれて、寺井の近くの木の幹に当たった。向こうだって馬鹿じゃない。ちゃ んと移動しているのだ。
再び連続で弾が襲い掛かってきた。その反応に遅れた飛田は、体中に銃弾のシャワーを浴びた。同時に激痛 と共に痛覚も失われ、右手にあった銃も狙撃されて跳ね除けられてしまった。


 くそっ! こうなったら……!


口の中が血で一杯になるのが分かった。もうこの状態では生きてはいけない。
右手の拳銃は何処かへ飛んでしまっている。もう探すことも出来ない。だったら……



 玉砕してやる。


 己の、正義をかけて。



「だぁぁぁあああっっっ!!!」

咆哮を上げて、サーベルを握って飛田は寺井に向って走り出した。もう痛みなどどうでもいい。拳銃を使って外 すよりも、サーベルでその体を真っ二つに切り裂いてやる。

再び銃声が響き渡り、いくつもの穴が空いたが、飛田は走りつづけた。そしてサーベルを振りかぶった。

瞬間、銃口が彼の頭に向けられて、いくつもの銃弾が彼の頭部を襲った。同時にサーベルも落ちて、寺井の目 の前の地面に突き刺さった。
当然飛田が生きているはずも無く、彼も砕け散った。



 こうして、己の正義を盾に戦った勇士、飛田信行は死んだ。



  37番 飛田 信行  死亡



【残り9人】





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