063



 昼過ぎ。もう、太陽は空の頂上まで駆け上がり、また夜に向けて沈み始めようとしている。
 ……それが、怖かった。また闇が訪れるのかと思うと、気が気でならなかった。

 角元舞(女子11番)は、そっとまだ眠りこけている芳田妙子(女子21番)の寝顔を見る。あどけない、たいの表情。
純真だとは、出会ったときから思っていなかった。ただ、こいつはバカなんだけど、でもバカなりに考えて行動してい
る、憎めない子なんだって、そう思っていた。
そんなたいが、人を殺した。クラスメイトを、まさにその手で殺した。真夜中に起き上がったたいは、由井都(女子20
番)を殺害した後、まるで何も無かったかのように、元の位置に戻ってここまでずっと寝ている。余程疲れてしまった
のだろうか、一向に起きる気配を見せない。時折寝返りを打っているから、死んではいないってことくらいはわかった
けれども。
不安だった。たいの両手にこびりついた紅い粕。それを見るたびに、この子が人を殺したということを嫌でも思い起こさ
せる。不安で、そして恐怖で、結局眠ることなんて出来なかった。いや、でも。まさか。

 たいは……うちを殺したりは、しないよね?

うちらは、ずっとずっと、小学校の時から知り合いだったんだ。仲良しだったんだ。うちらの友情はその辺のクラスメイト
よりも強い。だから、そうだよね。まさか、そんなこと、かけらも思ってなんかいないよね、たい?
そして、首を振る。何を考えている。どうしてたいを疑っている。そんなことを考えること自体おかしいのだ。落ち着け、
落ち着くんだ。大丈夫、たいは殺さない。もう、殺さない。よっぽどなことがない限り……絶対。
じゃあ……なんでたいは、由井都を殺した? 本当に、ただの正当防衛だったのか?

 ふと、脳裏に浜田篤(男子18番)の顔をが過ぎる。
 まさか……たい。

「ん……」

たいが、目を見開いた。少しだけ、その目は鋭い。
その視線の先を追うと、神社の境内に、誰かが立っていた。全然、気付かなかった。その人物は、そっと離れようとし
ていたのだろう、振り向こうとしていたところで、残念ながら目が合ってしまったらしい。

「……ばれた、か」

「堤さん……」

堤孝子(女子10番)が、そこにいた。あまり、良い評判は聞かなかったけれど、でもまぁ見た目ほど悪い子でもない、
そう思っている生徒だ。ただ、こうして呼びかけてしまった以上、なにかを話すのが筋ってものだ。

「えーと、その……堤さん、どうして逃げようとするの?」

堤自信はこちらの人数を把握しているかどうかは不明だが、少なくともうちやたいのことは、判別出来ていると考えて
よいと思う。

「んー、その……ねぇ。あたしも神社でゆっくりくつろごうかなーって思って来たのはいいんだけどさ。なんかもう先着
 様がいらしたみたいなんで、バレないうちに消えよかなって」

「別にいいじゃない、うちらは気にしないから、ゆっくりしていけばいいんに」

「いやー……でもそちらの相棒さんは、そう快くは思ってないみたいだけど?」

はっとして、たいの方を見る。たいは、相変わらず堤を睨み付けていた。そっと、たいの肩を叩く。だけど、たいはかた
くなに視線を逸らさなかった。

「どうやら警戒されてるみたいだね。こいつは困った」

「で、でもさ。堤さん、やる気じゃないんだよね? 気を遣ってくれたもんね? だったらさ、一緒にいたっていいんだ
 よ? ほら、別に、うちは大歓迎やし……!」

「断る」

だが堤は、即答した。はっきり、嫌だと。

「どうして……?」

「信頼のおけない奴らと一緒にいたって、いつ寝首をかかれるかわかったもんじゃないよ。そう簡単に仲間なんてポン
 ポン増えるわけがない。そんなのは、見せ掛けで強く思わせてるだけ。ちょいと中に入って爆弾でも仕掛けたら、簡
 単に木っ端微塵になる」

「信頼が、おけない?」

「あんたは信頼出来ても、残念だけどそっちの相棒は信頼出来ない。理由はどうあれ、ね」

「そんな……」

 たいの、拒絶。そして、堤の、拒絶。

それは仕方ないかもしれない。互いに、信頼していない。互いに、敵だと思っている。そんな二人を混ぜ合わせたら、
簡単に爆発して、うちまで巻き込まれるのは必至だ。互いのためにならない。
そして、否定できないのだ。堤と行動を共にしたところで、たいが堤を殺すとも限らない。それを否定できないうちが、
いる。否定したくても、できないのだ。

「そゆわけだから、あたしはそろそろふけるね」

「あ……うん、呼び止めちゃって、ごめんね」

「なに、いいっていいって。ま、互いに懸命に戦いましょ。それじゃ」

堤は、それだけ言い残すと、さっさと茂みの奥へと消えた。と同時に、たいも鋭い目をやわらかくした。そして、うちの
方を見て、また笑い始めていた。


 もう、どうすればいいのかわからなくて。
 なにかが、心の奥底で崩れ始めたような音が、した。





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