第二章 天国と地獄 − 


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 時刻は三時を過ぎた。エリアE=1が新たに禁止エリアに指定されたものの、勿論引っ掛かる者はいない。
エリアE=1は全域に高原公園が含まれており、高原村では唯一といってもいいほどのスポーツ施設だといえる。連
日のように午前中は年寄りがゲーボールを楽しみ、午後は子供達が駆け回る。フェンスに囲まれた場所にはテニスコ
ートが張ってあり、また野球などが出来る運動場も一応設置されていた。幸い、現時点ではこの公園内での戦闘は
一切起こっておらず、プログラム終了までもこのまま戦闘がなければ、すぐにでも復旧作業は簡単に出来るわけだ。

 さて、その公園が少しだけ含まれているエリアD=2に、一組のペアが歩いていた。お互いにデイパックも持たず、
何の宛もなくとぼとぼと歩いている行為は、このプログラムの性質上一種理解できない行動だった。
そのペアの一人、都築優子(女子四番)は、おぼつかない足取りでも確実に歩を進めていた。この先に何かがあると
いうわけではない。しかし、常に歩いていないと、誰かに殺される。そのような真理が疲れきった体に鞭打って、さら
に歩を進めさせていた。

 もう嫌だ、こんなの嫌だ。なんで、なんであたし達がこんな殺し合いなんかやらなきゃなんないの? 全国には、他
にだってもっともっと一杯学校があるじゃないの、なんでよりによってあたし達が、最後の最後に選ばれなくちゃ、なん
ないの?

 後ろから、ペアである杉本高志(男子四番)がついてくるものの、既に優子はそれを理解することも出来なかった。
疲労しきった精神は、肉体にまでも影響を及ぼしている。その顔には立派な隈が浮かび上がっていて、明らかに不
健康だった。お互いに、武器もない、食料も水も何もない。全ては、一組の男女のせいだ。

 許せない、絶対に許せない。みんな、みんなみんなみんな絶対に許すもんか。だってあたし達は何も悪いことなん
かしてないの。悪いことしてないのにみんな襲ってくるんだ。町田だって近藤だって奈美だって高松だって前田だっ
て、みんなみんなみんな襲ってきたんだ。あたし達は何もしてないのに、なんでみんなしてあたしのこといじめるの?
本当信じられないよ。町田はあたしを殺す気で襲い掛かってきた。無抵抗で何も出来ないあたしを、町田は殺そうとし
た。このクラスには他にも生徒がいるのに、あいつはわざとあたしを狙った。一番運動神経の悪そうなあたしを、あた
しを狙った。なんで? なんであたしだけいつも犠牲にならなきゃならないの? 近藤だってそうだ。あたし達が出発し
た途端に襲い掛かってきたんだ。あれは、絶対に殺す気だった。そうやってみんなしてあたしを狙うんだ。あたしを殺
せば気が済むんだ。生き残るために、みんながあたしを狙ってくるんだ。なんであたしだけ狙われなきゃならないの?
近藤を殴り倒したら、今度はペアの奈美が襲ってきた。二人とも殺す気だったんだ。奈美の目は殺意に満ちていたん
だ。絶対にそうだ。間違いない、あたし達を殺す覚悟はとっくに出来てたに違いないんだ。だから平気であたし達を、
出発したばかりのあたし達をわざわざ狙ってきたんだ。もう嫌だ、なんで、なんであたしだけこんな目にあうの? 他
にも襲うべきクラスメイトはいるじゃない? その中から、わざわざあたしを選ぶ理由は何? 拳銃があったから、あた
しは奈美を殺すことが出来た。武器が拳銃じゃなかったら、あたしは間違いなく奈美に殺されてた。殺される? 死ぬ
のか? あたし、死ぬの? 死ぬの? 嫌だ、死にたくない。死にたくない。死んでたまるか。死ぬなんてごめんだ。
死ぬ、死ぬ、死ぬ。嫌だ、嫌だ、怖い。だからあたし、奈美殺して生きて、でも奈美は死んで、近藤も死んで。いい気
分だ、あたしを襲ってきた罰だ。死ねばいいんだ、みんな死ねば、あたしは死ななくてすむんだ。死ななければ、死な
ない。みんな死ね、死ね、死んでしまえ、あたしは生きる。生き残る、死なない。なのに、なのになのになのに! 高
松が、全てを壊したんだ。猫だってあたしを襲おうとしてたんだ、あたしは撃った。猫目掛けて撃った。撃った! で
も、高松が現れて、殴りかかりに行って、あたしは、あたしは前田を殺そうと思って、殺して、殺して、前田が襲ってき
て、撃って。前田が掴みかかってきたんだ、殺す気なんだ、またみんなで、あたしをいじめる。いじめるんだ、あたしを
いじめるんだ! だからまた撃った、あたしは撃った。前田に、それは確かに当たった筈なのに、前田は、死ななかっ
た。死ななかった上に、さらにはあたしに高松が襲い掛かってきた。高松があたしを突き飛ばした、またいじめるん
だ! 高松はあたしの、命を奪ったんだ、大事な大事な、拳銃を奪ったんだ! それがないと生き残れないし死ぬ、
死ぬ、死ぬんだ! 嫌だ、死にたくない、死にたくない。高松が逃がしてくれた、殴る棒も失ってしまった。勿論、地図
も、コンパスも、水も、パンも、何もない。何もないから、何も出来ない。黙ってたら殺される。歩かなきゃ、歩かなき
ゃ、殺される。死ぬ、死ぬ、殺される、死ぬ、死ぬ、嫌だ、死にたくない。だから、歩く。

 空腹と喉の渇きに、肉体はどんどん消耗していく。しかし精神が既に壊れているために、それは感知することなど到
底無理な話だった。ただ生きるために、歩き続ける。何処へ行く宛もない。立ち止まったら、死ぬだけ。その感情が、
巡るプログラムの記憶と共に存在していた。
その時だった。家の陰から、自分達ではない別の人物が出てくるのを優子は察知した。死にたくないという逃げ腰の
彼女の精神が、その人物を瞬時に判断した。

 あの髪の色、茶色。平山だ、町田を殺した、平山だ。平山が、あたしを殺しに来た。殺しに来たんだ。殺される? 
死ぬ? 嫌だ、まだ死にたくない、死ぬのが怖い、怖い、怖い。殺されるのは嫌だ。だから、殺す。殺される前に、殺
してやる。武器はないけど、殺す。殺して、武器奪う。奪って、殺して。殺して、奪って、また殺して。あいつはやる気
なんだ、またみんなしてあたしをいじめにきたんだ。絶対に、殺す。殺して、あたしが生き残る。生き残るから、殺す。
銃は、ないけど、殺して、奪う。高松、殺す。前田、殺す。平山、殺す。みんな、殺す。そうさ、死ね、死ね、死ね。死ね
ば、解決。死ねば、いいんだ。さぁ、今こそ死ぬとき、平山、死ね。

 壊れた精神が、優子を突き動かした。全ての感情が、『殺』の一文字で埋め尽くされた瞬間、優子の体の中で、何
かが弾けた。

「うああああああっ!」

 わけもわからない咆哮を上げて、優子は、まるで鉄砲玉のように、一直線に、平山正志(男子七番)に向けて、走っ
ていった。




   【残り9人】







16


 吉村美香(女子七番)は、黙ってペアである平山正志(男子七番)の後をついていた。いきなりこういう状況に立たさ
れた以上、自分が何らかの行動を起こさなくてはならないことは明白であったものの、正直自分一人では何も出来な
いことを彼女自身理解していた。だからこそ、この連動という名の特別ルールはありがたかった。幸いにも、同じ出席
番号である平山は頼りになる男だった。

 もともと美香は、判断力に欠ける少女であった。このクラスの中では恐らく一番の顔をしている。それは美香も自認
していたし、他の生徒だって、誰が一番美しいか(可愛いかではない)という話題になった時だって、最終的には美香
が選ばれたのだ。ただ、美香は別にそのようなことはどうでもよかったし、別に優等生というわけでもないので、自由
気ままにこれまで生きてきた。中学一年の入学した時だって、たまたま出席番号が連番で席が前後だった矢島依子
(女子六番)とも息が合った。そして繁華街に出没しては、遊ぶという行為を繰り返した。
いつしか、美香と依子、そして小島奈美(女子三番)の間で、グループ関係が出来上がっていた。それは他の生徒か
ら見れば、いわゆるワルだった。現に、依子と奈美は生意気な下級生を恐喝して、金を巻き上げたことが教師達にば
れて停学になったことはある。だがしかし、美香には当座関係のない出来事であったし、その時に教師に尋問された
りもしたが、本当に何も知らなかったので適当にあしらっておいた。自分が行動を起こして面倒なことになるのが嫌だ
ったのだ。というよりも、面倒くさいのだ。だったら、そんなくだらないことなんてしないで、余った時間を有効に使えば
いい。そんな美香にとっては、学校に出席することも面倒だった。授業が面倒だった。もし、依子や奈美といった話し
相手がいなかったら、きっと不登校児になっていたに違いない。
計画は依子が立てる。そして何か行動を起こすのは奈美。自分はただそれに従って、適当に振舞うのみだ。そういっ
た他人任せを続けていくうちに、いつの間にか自分自身で考えるといった行為が出来なくなっていることに気がつい
た。

 今回のプログラムでもそれは変わらなかった。ペアの平山は、もともとは普通の生徒だったのだ。それがいつの間
にか、髪を染め、教師達に反抗するようになり、見事に不良になってしまった。
中学校を出発してから、早速平山に言われるまま、自分は武器を確認した。それがコルト・ガバメントという名の拳銃
だと知った時、自分は平山が言ったとおりに弾を装着して、いつでも撃つことの出来る体制にしておいた。そして校庭
で、同じグループの奈美が死んでいるのを見つけた。だけど、特に悲しいといった感情は湧かなかった。ただ、奈美
が死んでいるという事実を確認しただけで、それに対して泣くといった行為は一切しなかった。いや、本当は泣いてい
たのかもしれない。だけれども、あまりのショックで、感情が消えてしまったのだろうか。それとも、ただ単に泣くに値
しない出来事だっただけなのだろうか。
ともかく平山の後をついていきながら、美香は辺りを警戒し続けていた。それくらいは自分でも出来る。慣れない事だ
けれども、それくらいなら簡単だ。辺りには誰もいないし、いたらこの銃で威嚇する。そうすればいいのだ。平山はそう
言ったのだ。だから、従うだけ。
高原公園のベンチで放送を聴いた後、再び移動しようという事になり歩いていた時、何か言い争っている声が聞こえ
た。それはどうやら口喧嘩をしているようで、平山はそちらの方に関心を示したのか、その音の発生元に近づいてい
った。美香も黙って後をついていく。そこにいたのは、高松昭平(男子五番)と前田綾香(女子五番)だ。早速、もとも
との友人との再会を果たした平山。やはり最初は町田宏(男子八番)の一件のせいで警戒されていたものの、あっと
いう間に自分達を信頼させてしまった。相手を信頼させるという行為は、美香自身も得意だったものの、この状況で
実力が出せるとは到底思えない。その点、平山は素晴らしかった。
だが平山は、何を考えているのか、共に行動することもなく、さっさとその場を後にしてしまった。自分も、ただそれに
従って、ついていっただけだ。別に共に行動する気は毛頭なかったし、この状況でそう簡単に(それもあまり密接な関
係になっていない)人を信じるのはあまりいい判断とはいえそうにもない。だから、自分もその点では同意して、平山
についていったのだ。

 平山は、どうやらこのプログラムに参加する意思はないらしい。だがやはり少なからずは死ぬことを恐れているのだ
ろうか、行動中は声も出さず、極力慎重に移動している。何度も銃声がしては、そちらの方を同じ数だけ窺っていた。
平山が言うには、どうもこのプログラムに積極的に参加している生徒を止めようと思っているらしい。殺し合いという無
意味な行動をやめさせたいのだ、とかなんとか。だから、確実に人を殺したことがわかる矢島依子を探しているのだ。

 矢島依子は、一体何故クラスメイトを殺してしまったのだろうか。それは常日頃行動を共にしていた美香でさえわか
らなかったし、勿論他の生徒にもわかる筈がない。だが、依子が人を殺したという事実は変わらない。平山は、たとえ
正当防衛だったにしろ、依子と一度話をしたいそうだ。それなら、自分は手伝うまで。あくまで、補佐にまわるまでだ。
依子に聞きたいことも、一応自分にだってあるのだから。

 そこまで考えて、私は何を目的に、今を生きているのだろうかとふと思った。いつも、他人に付いてばかりいる存
在。それはもしかすると、いてもいなくてもいい存在なのかもしれない。そう、それはまるで影。影は、光がないと消え
てしまうもの。

 このプログラムで、大人しく散っていく一つの影なのだろうか。

それを必死に否定している自分がいた。ただ、頷いているだけの自分もいた。関係ない、と開き直っている自分もい
た。自分の中には、沢山の自分が住んでいる。それは感情の変化で常に入れ替わりをしているもの。同じ自分がず
っと出ていてはいけないのだ。
だが、実際はどうだろう。今の自分は、全てに対して全く無関心な自分だ。他人に任せるまま、自分は何も行動を起
こさない。それは、あの初めて制服を着たときに出会った、依子。彼女との出会いから、自分は全く変わらなかった。
それじゃあ駄目だと、必死に抵抗する自分がいる。なんとかして、虚無感をなくそうとしてくれる自分がいる。だけど、
そのどれよりも強い今の自分は、誰も倒すことが出来なかった。

 これで、いいの? 本当に、このまま終わって、いいの?

自分が叫んでいる。心の奥底に封印された自分が、必死に叫び声を上げている。本当にこれで良いのかと、まだ抵
抗している。今なら、自分は変わることが出来るかもしれない。この息苦しい状況下で、見事に変化することが、出来
るかもしれない。

「うあああああああっ!」

 それは、本当に突然だった。いきなり物陰から出てきた人物は、前を歩いていた平山に掴みかかった。咆哮を上げ
ながら、必死に平山の首を締め上げようとするその女子は、だが呆気なく手を引き剥がされて、転ばされた。その時
だ。転がった彼女、都築優子(女子四番)の目が、私と合った。何も感じることのない、淀んだ目だった。

「コ……ロス……」

その口が、まるで機械のようにぎこちない動きで上下に動いた。その言い方に恐怖感を感じた瞬間、一気に都築は
私に掴みかかってきた。

「やめろ、都築!」

平山が、体勢を立て直そうとして、今度は別の男子生徒に押さえ込まれているのが見えた。平山は必死に抵抗して
いるが、その男子生徒、杉本高志(男子四番)は、ぐっと平山を押さえつけて、地面をごろごろと獣のように転がって
いた。
私は、どうすることも出来ずに、都築に思いっ切り突き飛ばされて勢いよく後ろに転倒した。ビリッと、何かが裂ける音
がした。あぁ、アスファルトに擦れて制服が破けちゃったのかな。どうでもいい事を考えながら、自分の首元を狙ってく
る都築を必死に止めた。

「死ね! 死ね! 死ねぇぇ!」

 狂ったように、都築は叫んでいる。中の自分が、反抗するべきだとこちらもまた叫んでいる。都築の両手を掴んでい
た右手が払われて、一気に両手で首、クラスメイト全員に等しく巻きつけられたその銀色の首輪の少し上辺りに、都
築の細い手が巻き付いた。瞬間、物凄く息苦しくなった。それは、味わったことのない痛み。

 駄目! 死んじゃうよ! ほら、早く、反抗して、反抗して!

中の自分が、そう叫び続けている。傍らでは、まだ平山が死闘を繰り広げていた。生きようと、絶対に死ぬもんかと、
平山は頑張っている。なのに自分はどうだ? 何の抵抗もせずに、このまま殺されてしまうのか? 自分が死んだ
ら、平山も、連動制度のせいで死んでしまう。

 嫌だ、まだ、死ぬわけにはいかない。

今いる自分が、指示を待て、指令を待て、と狂ったように、中の自分に負けないように主張している。だが、もう、迷い
はなかった。

「……死ぬ、もんか……!」

 パチン、と何かが弾けた。自分の心の中で、なにかが音を立てて割れた。それは、まるで寒い朝、水溜りに出来た
氷を足で割ったときに出るような、心地よい音。心の奥にいた自分が、出てきた音。今の自分が、消え去った。
右手で、スカートに差しておいたコルト・ガバメントを抜き出す。安全装置は始めから外してあるし、弾だって全て挿入
済みだった。その右手を、そっと都築の胸に突き当てる。非常に、苦しかった。

「死ね」


  ズダァン!


耳元でした銃声は、軽く鼓膜を麻痺させた。吐き出された弾は、あっという間に都築の華奢な体を貫通して、天を目
指して一直線に進んだ。自分を拘束していた都築の両手が緩み、やっと痛みから解放された途端、一気に喉に溜ま
っていたものが全て逆流してきた。酸っぱい、胃酸の味がする。だが、それを全て飲み込んで、ゆっくりと立ち上がっ
た。そして再度、撃鉄を上げる。

「ひっ、ひっ」

 腹部から真っ赤な鮮血を垂れ流しながらも、なお都築優子は生きていた。両手で流れ出る血を押さえながら、それ
でもまだ必死に生きようとして、じっと自分を睨んでいた。そんな彼女を撃つのに、不思議と迷いの概念は、一欠けら
もなかった。


  ズダァン!


この拳銃から吐き出された二発目の弾は、都築優子の顔面を貫いた。鼻のやや左から顔へ進入し、脳味噌をぐちゃ
ぐちゃに荒らした後脳幹を破壊し、ようやく満足したのか、弾は抜けていった。
すっかり変わり果てた都築優子は、もうピクリとも動かなかった。

「吉村……!」

 平山が、杉本が、唖然とした顔でその光景を見ていた。二人とも、もう戦闘行為はやめていた。突然の自分の行動
に、驚いていたのだろうかは知らない。だが、先に動いたのは杉本だった。その行動に気がつき、黙って今度は銃口
を杉本に向ける。

「ま、待て! 吉村!」

 平山がそう叫んだ。
 もう、命令は聞かない。


  ズダァン!


 三発目の銃声は、あまりよく聴こえなかった。耳がいかれてしまったのかもしれない。その弾は、杉本の左の肩甲
骨に命中した。今の騒動のドサクサにまぎれて、さりげなく平山の支給武器であるサバイバルナイフを抜き取ってい
たその左手が、変な方向に曲がっていた。

「うがぁぁっ!」

勢いで、杉本が後ろに倒れこむ。平山はそこでようやく自分の武器が抜き取られていることに気がついたのか、慌て
て杉本の手から転がり落ちたナイフを取り戻した。そして、言った。

「吉村、まだ撃つな。こいつに、聞きたいことがある」

ただ意見を聞いていたときの自分とは違って、これは完全に自分で判断して頷いたものだった。自分で、考えてい
た。
平山は、そっと倒れている杉本のそばに立って、呻き声を上げている杉本に、言葉を投げかけた。

「お前らを襲ったのは、誰だ?」

「な、何のことだ?」

「とぼけるな。さっきの銃声だよ。あれ、お前達だろ?」

 杉本が、黙って頷くのが見えた。

「誰が、お前らを襲ったんだ?」

「……松だ」

「あぁん? 聞こえねぇよ」

「高松だ! 高松と前田が、俺達の武器を奪いやがったんだ!」

 杉本は、空を仰ぎながらそう叫んだ。
その言葉が、美香には理解できなかった。高松昭平と、そして前田綾香。この二人が、杉本達を襲ったのだ。結果、
杉本達は(今気がついたことなのだが)デイパックや自分達の荷物を何も持っていなかったし、そして支給された武器
も持っていなかったのだ。
この二人が自分達を襲ってきた理由も、恐らく。

 全ての元凶は、あの二人。自分達が絶対にこのゲームに参加しないと思っていた筈の、あの二人。あの二人が、
自分達を見事に裏切ってくれたのだ。

 許せない、絶対に。

 平山は、しばらく無言でいたが、ポツリと呟いた。

「そうか……」

そして、平山はチラッと自分を見た。その目で、彼が何を言おうとしているかなんて、簡単にわかった。躊躇なんか、
もうしない。あの二人が参加したのだ。なのに他の生徒が、どうして信じられようか。ゆっくりと、コルト・ガバメントの
撃鉄を上げる。

「あ……うぅ……」

 その行為に気がついたのか、杉本が呻き声を上げ始めた。だがそれにも関わらず、銃口を杉本の頭にセットする。


 不思議と、笑みがこぼれた。
 なんだか、可笑しかった。


「や……やめ……」


  ズダァン!


 その言葉を遮るように、引き金にかけた指に力を込めた。途端、杉本高志も、ただの肉の塊になった。そうさせたの
は、自分だ。自分自身の、意思だ。

 もう誰もいなくなった空間で、平山が近づいてきて、言った。

「矢島、高松、前田。この三人は、このゲームに参加している」

 そう言うと、再びじっと自分の目を見つめてきた。

「……殺すんだね?」

 ゆっくりと、重みをかけて美香は言った。鳥の鳴き声一つ、今はなかった。それが、何故か安心感を与えてきた。
 平山は、その質問には答えず、ただ軽く、笑っただけだった。

 綺麗な青空の下、二つの死体を置き去りにして、再び美香達は歩き始めた。その目には、確固たる決意が、込めら
れていた。


 こうして、このペアは、もう自分達の生ぬるい意思は脱ぎ捨て、偽りの大儀の下、殺戮を開始し始めるのであった。




  男子四番  杉本 高志
  女子四番  都築 優子    死亡



   【残り7人】






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