「それでは、これからみなさんに出発してもらうんですけれども、その際にこの」

 道澤はいつの間に運び込まれていたのか、そもそもそのようなものがあったのかどうかさえ疑わせられるような感じ
で積まれていた大きな濃い緑色のデイパックを左手に1つ、掲げていた。

「デイパックを渡します。当然1人1つずつね」

続いて、そのデイパックを元の位置に戻すと、再び教卓に手をついて説明を続けた。

「今この手に持ったデイパックの中には、水と食料、地図とコンパスに、懐中電灯、そして武器が入っています。水は
普通の地下水が2リットル分、食料はパンです。地図はこの大きな地図の縮小版で、一緒にクラス名簿も印刷されて
いるから活用してくださいね。それからコンパスは方位を確かめる磁石版、懐中電灯はとりあえずバッテリーが内蔵
されています」



 クラス名簿だと?



つまり、死んでいった生徒をどんどん記録していけということだろう、嫌な政府の考えそうな事だ。それから、水が2リ
ットルというのも少し足りない感じがする。何処か、井戸のある家かなんかから調達しなければならない時も来るだろ
う。食料も探さなくては。

「武器はランダムに入っています。あたりもあれば、はずれもあります。銃やナイフとは限りません、適当に入れまし
たから、頑張って活用して下さい」

つまり、武器の中には銃もあるということだ。錯乱した生徒に支給されたりしたら、大変な事になるんだろうな。
そう思いながら司は、隣で震えている理沙を見た。



 こいつは……大丈夫だろうか?
 こんな怪我を負わされて、果たして正常でいられるのか?



「では、最初に出発する生徒はあらかじめくじで決まっています。この封筒に、結果がかかれている紙が入っていま
す」

そして道澤は、手馴れた手つきでその封筒の端を破いていった。
その中身を取り出して、ふぅんと一回息を吐き出してから、大きな声で言った。

「最後ですね。女子34番 湾条恵美さん」



 ガタン…!



教室の端の席に座っていた、恵美が、音を立てて立ち上がった。
その体が震えているのが、手に取るようにわかる。だが、おそらくそれはいきなり名前を呼ばれたからだろう。彼女は
いつも快斗と一緒にいた。あいつと一緒にいたのだから、度胸だけはある。






 彼女は、乗らない。






「湾条さんの次は最初に戻りますから、次に出発するのは男子1番の秋吉快斗君ね。インターバルは2分だから、ぐ
ずぐずしない方がいいからね。では、湾条さん、出てきて下さい」

恵美は、その赤いヘアバンドを付け直して入口の方へ歩いていった。
どうやら顔の青白さはすっかりと元に戻っている。既に現実をしっかりと見据えたようだった。




 そして、毅い眼をしていた。




「恵美」




静かな教室内に、ふと前で声がした。
その声の主は簡単にわかる。それは勿論、親友の秋吉快斗だった。




「待ってろ」




恵美は黙ってコクンと頷くと、デイパックを受け取って走り去っていった。
秋吉は、恵美と合流する気だ。そりゃそうだ、島には、事実上出発しているのはその2人だけなのだから。

「じゃ、秋吉君。2分後に外にいる彼女に伝えて頂戴。みんなも良く聞く事! 現在の時刻は午前2時36分! 分校
のあるこのエリアが禁止エリアに指定されるのは午前5時10分! いいね?!」

「……わかった、伝えればいいんだな?」

秋吉が立ち上がる。もうそろそろ2分経過するのだろう。
あっという間だった。

ふと、自分の順番に気がついた。自分は男子の7番目。つまり秋吉が出発してから24分後に出発だ。
自分の前には古賀啓子(女子6番)が出発する。こいつとはあまり話した事が無いからわからないけれど、たしかおと
なしいお嬢さんというイメージがあった。



 彼女は……このゲームに乗るだろうか?
 それとも脅えて、じっと震えているだけだろうか?



恐らく後者だな。女子とて生き残りたい気持ちはあっても、体力と精神力がなければ駄目だ。よほど自分に自信がな
い限り、自分からゲームに乗る行為なんてしないだろう。もっとも、気が狂っていたら見境なく攻撃してくる可能性はあ
る。だが、この場で見る限り、そのようなことはないようだ。
自分の後に出てくるのは坂本理沙だ。怪我をしているから、やる気だとしても多分襲われる事はないだろう。ただ、怪
我をしているせいで錯乱している可能性もある。中村先生の死体には相当応えていたようだし。だとしたら早めに打
開策を立てなければならない。

だが、自分はどうしても唐津に言いたい事があった。ライバルとして、そして最後の闘いとして。
まずは彼女を上手くやり過ごさなくては。

「はーい、2分経ちましたよ、秋吉君。出発してください」







   【残り68人】



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