「はーい、では次は女子4番の恩田弘子さんね」

 道澤がそう言うと、恩田は黙って立ち上がり、デイパックを受け取って室内から出て行った。
彼女はいつもは冷静な感じがしていたが、今の彼女を見る限り冷静ではなさそうだった。否、冷静さを装ってはいた
が、汗がにじみ出ていたし、視線はぶれていた。緊張している自分を押さえつけているのだ。


 沖田大介(男子5番)は、そういった人を観察する能力に長けていたといえる。自分も十分冷静でいられる自信はあ
るし、なにより人を知らなければ自分を知ることなんてできる筈がない、彼は自然にそう考える。
きっと恩田は、冷静さをいつかは失い、そして精神を崩壊させ、クラスメイトを殺そうとしてしまうだろう。この巨大な恐
怖心に打ち勝てずに。
なら簡単だ。最初から死ぬ覚悟をしていればいい。クラスメイトを殺して勝ち取った生存権なんて、どうせ無駄に使っ
てしまうに違いない。だから、生きようとせずに、死なないようにするべきなのだ。
これは勝負だ。自分から決して無理をして殺すべきではない。武器が使えないようなものなのなら、遭遇した時には
上手く逃げおおせればいい。もし当たりだとしても、何かしら理由がない限りは殺さないで生かしてやればいい。

 だが。



 絶対に人を信じてはいけない。

 信じたら、殺されるだけだ。




「そろそろ2分経ちますね。じゃ、男子5番の沖田大介君、前へ出てきて」



 時間がきた。





 無理はしなくていい、生きてさえいればいい。





大介はデイパックを受け取った。重いとは思っていたが、案外そうでもなかった。それを担ぎながら、出入り口の扉の
前で振り返った。まだ出発していないクラスメイト58人の顔を一瞥し、そして踵を返して一気に扉を開けて出て行っ
た。
みんなはどう思っているだろうか、俺がやる気になったのだと思うだろうか。


 まぁ、心配しても仕方ないな。


玄関は静まりかえっていた。
とりあえずやる気である奴に入口で殺されたら元も子もないので、一応用心するに越した事はなかったが。


「……!」


ふと、人の気配を感じた。
中学校入口の柵の脇の茂みの中。そこが、微かに揺れた感じがした。



 誰かいる。

 だが、殺気はない。誰かを待っているのだろうか?



要するに大介は第六感の方も非常にさえていたのだが、それは本人も知らない。

「誰だ」

そう言いながら、慎重に大介は歩を進めていった。そして、茂みの前まで行くと、一気に掻き分けた。

「沖田君……!」

そこに、1人の生徒が、いた。遠藤保美(女子3番)だった。
たしか彼女は中間派の女子グループに所属していたはずだ。そう、伊達沙織(女子10番)や辺見 彩(女子20番)
達と仲が良かったはずだ。
もし彼女らを待っていたのだとしたら、遠すぎる。第一出席番号が離れすぎている。無謀だ。

「お前……ここでなにしているんだ?」

「あ…あの、つまり…その……」

保美は顔を赤らめて、もどかしく喋っていた。恥ずかしいのかはたまた見つかってしまって変な風に焦っているのか。
別にどうでも良かったが。

「どうでもいいけどな、お前もこんなところにいたら無謀すぎるぞ。悪い事は言わない、逃げろ」

「え…でも……! 私は……」

「いいか、人を信じるな。お前が俺を思っているんだったら、絶対に信じるな。わかったか?」





 信じるな。





問答無用で大介は一気に喋った。急がないと2分間が経過してしまう。
保美もそれがわかったのかどうかは知らないが、頷いたので、再び踵を返して走った。





 保美が大介をじっと見つめていたのも知らずに。
 保美が誰を待っていたのか、何故そこにいたのかも聞かずに。







   【残り68人】



 Prev / Next / Top