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 雪野 満(男子33番)は、茂みの中を巧みに動き回り、じっとその視線の先にあるものを見つめていた。


それは、まぎれもない敵。そう、このプログラムという状況下、自分以外の人間は彼にとって全て敵だった。
彼等は、自分を容赦なく襲ってくるに違いない。そして、自分なんか……そう、自分はほとんど最後に出発させられた
のだ。自分があの建物を出発した時にはもう、クラスメイトの大半が殺戮を開始しているに違いない。

現に玄関前には誰だかわからなかったが女子生徒が転がっていた。あれだけ血を流していたのだ。生きているはず
がない。あの建物の中にいる時だって、外で銃声やらなんやらがもう聴こえてきたではないか。

そうさ、要するにみんなやる気なんだ。よってたかって自分を殺そうとするのだ。そう……自分以外はみんな敵なの
だ。だから殺さなくてはならないのだ。

そして今、殺すべき奴はすぐそこにいる。その大きな体系からして、多分クラス一身長の高い本条 学(男子30番)
に違いない。たしか本条は佐久良浩治(男子12番)と仲が良かったはずだ、きっと、合流しようなどと考えているのだ
ろう、しきりに辺りを見回している。

満は、そっとその小さな手に握られた大ぶりの斧、P社製アックスβ−120を意識して、息を潜めた。それは玄関口
に転がっていた死体の頭の辺りに刺さっていたものよりも一回りほど大きかったし、殺傷能力は充分に期待できた。
殺害方法は簡単、この刃先を、相手の頭部に振り落とすだけだ。少し力があれば簡単にできる。

満は小柄ながら野球部に入っていたから体力には自信があったし、足も早かった。その点では勿論本条も負けてい
るわけではないが、向こうに支給された武器がはずれならば勝算は充分にある。

もう一度視線を目の前の本条に向けた。

 本条はまっすぐに前を向いていて、一度肩で息をしたような仕草をした。




「いるんだろ。出てこい、雪野」





その言葉が吐き出された瞬間、満は体に電流が迸った。







 なんで……なんでわかったんだあいつは?!







「さっさと出てこい。わかってんだ」


とりあえずこっちが誰だかわかられている以上、出て行かないわけにはいかなかった。仕方ない、と緊張しながら満
は茂みの中から本条の前に姿をあらわした。本条は黙って満の右手に握られている斧を見ている。



 しまった、斧は隠しておくべきだった……時既に遅し。



「何か喋れよ、俺を殺そうとしたんだろ?」

「…………」

満はその解答に困った。殺すつもりだったといえば、本条は容赦なく自分を殺すのだ。違うといったってわかったもん
じゃない。自分がつけていることがばれていたのだ。殺す以外に何の理由があろうか。

満が黙ったままでいると、本条はやれやれ、と前髪を掻き揚げて下を向いたまま言った。

「だんまりか。まぁ、それでもいいけどな」

「……僕を殺すの?」

恐る恐る聞いてみる。覚悟だけはした方がよさそうだったからだ。

「殺されたいか?」

「……いやだ」

「だから殺そうと……ゲームに乗ったのか? 自分をみんなが狙っているとでも?」

「違うのかな?」





 沈黙。





本条は、その口元に笑みを浮かべた。その瞳は優しく包まれている感じがしている。この状況下、それは逆に怖かっ
た。こいつは、何を考えているんだ?

「少しは、人を信じろよ。誰も彼もが、こんなクソゲームに乗っているわけじゃない」

そういうと、一目散に本条は走り去っていった。



 満はその言葉の真意がわからずに、だが敵を追う気にもなれず、ただただそこに佇んでいた。







   【残り66人】



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