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 第一回目の放送が終了してから早速1時間が経過し、エリアG=2が禁止エリアになった。
 もちろんその指定に引っかかった人物などはいない。


 沖田大介(男子5番)は、地図を取り出すと早速エリアG=2のマスを赤く塗りつぶした。同様に、F=4も既につぶ
されている。
地図上で言うとエリアH=8にあたるその場所は、鬱蒼と木が茂っている森林だった。北の方にはやや高めの山がそ
びえており、頂上付近には山小屋が見える。あそこならきっと朝日も綺麗だったことだろう。
だが、あそこは目立ちすぎている。必ず、誰かが居るはずだ。



 誰も、信じない。
 信じれば、殺されるだけだ。



ふと、分校の前で遠藤保美(女子3番)に言った言葉を思い出した。
何故、遠藤はあそこに居たのだろうか。誰か、待っていたのだろうか。どちらにせよ、自分の忠告を素直に聞いたの
だから、今頃も一人で居るのだろう。仲間を集めようにも、裏切られたらそこで終わりなのだから。
だから遠藤はまだ死んでいない。誰とも一緒に居ないから、死んでいないのだ。

 ふと、近くの茂みが動いたような気がした。
 耳を澄ますと、微かに草を掻き分ける音が聞こえる。それを確認した直後だった。


「だりゃぁぁぁああっっ!!」

気合の入った声が聴こえ、大介はとっさに身構えた。右手のほうから何かが走ってきた。その人物は、両手で何かを
持っていて、そしてそれを振り上げている。おそらく、何か棒状のものだろう。
大抵、棒状のもので攻撃するときは、振り下ろすかなぎ払うかの2つに分かれる。振りかぶっているということは、次
はそれを振り下ろすに違いない。それを避けることができたら、相手は勢いに任せているから地面に叩きつけ、一瞬
だが隙ができる。やるならそこだ。

「くらえぇぇっっ!!」


 くる。

咄嗟の判断で、大介は左の方へ跳んだ。今は無理をして利き腕のほう、つまり跳びにくい方向に跳ぶことはないしそ
のまま避けても問題はないはずだ。
案の定その人物は空振りし、たたらを踏んだ。その一瞬の隙をついて、大介は支給武器の文化包丁をその人物の
腹に突き刺した。その時、はじめてその人物の顔を確認したのだ。
薄くひげの生えているごつい顔、その顔のせいで子供になつかれない事を不満に思っていた男。


 まぎれもない、西村鉄男(男子25番)だった。


温厚な性格だった彼をやる気にさせたのは何なのだろうか。
生き残りたいという心境か、あるいは死体やら何やらを見て気が狂ったのか、それとも放送で呼ばれた名前の生徒を
聞き、誰もがやる気になっていると思ったのだろうか。


 真実はわからない。


まだ大介が幼い小学生の頃、当時空手道場に通っていた大介は、並みの奴等には敵わない相手だった。あまり素
行のよくない奴等はよく女子をからかっていた。大介はそういったことで泣かされている女子を助け、よかれと思って
そいつを痛めつけた。
そいつは政府の役人の息子だった。そいつは親に言いつけ、もちろん学校でもそれは問題になり、最終的には大
介は教師陣に呼びだされた。
自分は悪くない。そう主張したのだが、賛同するものは誰もいなかった。みな、そいつの復讐を恐れて。
親友も、賛同してくれなかった。大介は一人ぼっちだった。
以来大介は孤独の道を進んだ。誰も自分に賛同してくれなかった生徒たちとの交流をすべて拒んだ。中学に入って
からは同じクラスの連中もいなくなったし、そのようなことはなくなったが、やはり彼は誰も信じられなかった。


 そう、自分に賛同してくれる人なんていない。
 いざという時には、自分を守ることで精一杯なんだ。他人なんて、どうだっていいんだ。


 だから、俺は誰も信じない。
 信じれば、裏切られた時、最大のむなしさが込み上げてくるから。




 既に息絶えた西村の死体を見て、大介は彼のデイパックと鉄棒を拾い上げると、その場を去った。




 誰も信じない、そう胸に決めて。







 男子25番 西村 鉄男  死亡







   【残り64人】



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