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 10時17分。エリアG=4、民家。
 決戦の時まで、あと3分。


ようやく、目的の家を見つけた。
自分たちの目指している家が、森を抜けたそこに堂々とそびえ立っている。

「恵美、やった。あったぞ」

秋吉快斗(男子1番)は、後ろを振り向いて言った。その後ろには、まだもたついている湾条恵美(女子34番)が、あ
ぶなっかしい足取りでよたよたと歩いている。

長かった。放送から4時間少し。実際に行動を開始したのは6時30分だから、実に4時間も移動していたのだ。禁止
エリアに指定されたエリアG=2をなんとか抜け出して(時刻に換算すると6時52分。かなり際どかった)、G=3に入
った。このエリアも大半が森で占められていて、南側を丘陵の端が掠っている程度だ。

女の子に、森の中を歩かせるのは危険だ。快斗はそう思っていた。
森の中には、結構毒を持った植物がある。迂闊に葉っぱに触ったりすると、被れてしまって大変なことになってしまう
のだ。そう、男子はズボンを穿いているからいいものの、女子はスカートなので足を露出している。下手に転んだだけ
でも惨事になりかねない。これからの行動にも支障をきたしてしまうだろう。
そう思って快斗は説明したのだが、恵美は素直にうなづいてはくれなかった。
まぁ、当然と言えば当然だろうな。恵美は俺の言うことに反発する。私が女の子だからって、気を遣わないで、だって
さ。そこが可愛いんだけどねぇ。
今度は恵美が主張した。森の中を歩こう、と。森の中は障害物が多いから、何かあったときに身を隠す場所が多々あ
る。それに見渡しのいい丘陵を歩いたら、何時何処で誰が自分たちを狙っているのかわからないのだ。少しでも危険
は回避したほうがいい、と。

結局、まずはエリアG=2を出るのが先決だと言うことになり、両者の中間を行くことにした。つまり、丘陵に極力近く
て、尚且つ木々の少なくて歩きやすい森を歩く、というなんとも簡単で意味の深い答え。
そんなこんなで出発は6時30分になり、エリアG=2を抜け出したのは禁止エリア指定8分前と、かなり危ない行動
を取った2人だが、大した出来事もなく、時間は過ぎていった。常に前方と後方の確認を行いながら進んでいくのは、
時間もかかるし精神力も消耗する。だが、一瞬のミスが大惨事になることはわかっていた。だからこそ、2人は協力し
合い、少しずつ、森を制覇していったのだ。

 途中、銃声がしたので、足を止めた。ついでに休息もとることにした。恵美の情報端末機を見てみると、新たに、し
かしやはり、というべきか、生徒の名前が赤く表示されていた。

 西村鉄男(男子25番)だった。

ついでに、自分たちの今いるエリアはG=3に変わっていた。周辺マップのエリアG=2が、赤く塗りつぶされている。
既に禁止エリア入りしているという意なのだろう。正確な距離は出ていなかったが、自分たちはどうやらまだエリアG
=3の西側に居るらしかった。

それからお互いに注意しながら歩き続けて、気がついたら3時間近く経過していた。その間何も銃声などはしなかっ
た為に、誰も死んでいないと安心したのだが、いつの間にか端末機には駒川大地(男子11番)の名前が表示されて
いる。西村鉄男のときもそうだったが、再び恵美がぐったりとしてしまった。

間違いなく、進んでいる。このプログラムは、着々と残り1人まで減り続けていくのだ。





 そう、多分。
 自分も、恵美も、いつかは。




 自分たちは、今何をしているんだろうか。
 何のために、生きているのだろうか。


 ただ、なんとなく惰性で生きてきたのではないのか。




 いや、そんなこと、どうでもいいんだ。


 まずは、少しでも長く生き延びること。
 今はこのことさえ考えていればいいんだ。






「え……あったの?! どこどこ?」

「ほら、すぐそこさ」

そう、その目的の家は、こうして建っている。
やっと、ゆっくりできるんだ。

勿論、それは束の間でしかないことなど、十も承知だったけれど。





 そして、快斗達はまだ知らない。
 自分達を待ち受ける、酷く悲しい運命のことを。







   【残り63人】



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