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 一日目、正午。
 プログラム開始から、9時間34分経過。


 再び、東京都東之島内に大音響が響き渡った。

「おっと、もうこんな時間なのか。地図地図っと」

粕谷 司(男子7番)は、ゆっくりと公園のベンチに腰を下ろした。
地図上のエリアC=4、矢代共同公園と書かれた場所に今自分はいる。ここは島内でもかなりの規模の公園で、
近くの交差点にある噴水も公園が建設された際、地域活性化のために建造されたと言う話だ。
これらのことは、初代矢代町町長の銅像の下のプレートに書いてあった。


“皆さん、元気で戦っていますか? 現在正午になりました。ちょっと休憩して、私の放送聴いてくださいね”


優雅なクラシック音楽が流れる中、担当教官の道澤の声があたりに響き渡った。
別に今、積極的に殺しあうことなどないのだから、堂々とベンチに座っていても問題は無いはずだ。丁度見通しもいい
し、奇襲する、という行為も容易ではないだろう。

 腹の音が鳴っている。

ああ、そういえば朝は何も食べていなかったなぁ。体力減ってるだろうから、放送終わったら何か食べておこうっと。


“それでは、先程の放送から現在までに死亡したクラスメイトの名前を発表します。まずは男子11番 駒川大地君で
す。続いて25番 西村鉄男君。いやぁ、やっと男子も人数が減ってきましたねぇ”


初めての男子の死亡者。それも2人だ。
駒川はただのオタクだから驚きはしなかったけれども、西村は意外だった。西村はクラス一ゴツイ顔として有名だった
し、それに勝る優しさを兼ね揃えていた、まぁギャップの激しい奴だったが、喧嘩はかなりの腕前だったはずだ。やは
り、喧嘩が上手くても関係ないってことなのかな。


“次は女子です。19番 福本五月さん、26番 政岡 愛さん。合計4人です”


地図に印刷されている名簿に斜線を引いていく。これで斜線は7本、まだまだ1割だ。


“はい、残りは61人になりました。どうしたのかな? 皆さん元気が全然無いようですね。もう少しやる気を出さない
と、すべてのエリアが禁止エリアになってしまいすよ。それでは、禁止エリアの発表をします。まずは午後1時からB
=8が禁止エリアになります。続いて3時からJ=6、5時からE=7が禁止エリアになります”

すかさずチェック。B=8は砂浜の海岸東、J=6は南の海沿い、E=7は火山の西方だ。注意するとしたら、中央に
位置するE=7だろう。まぁ、しばらく周りは禁止エリアではない。


“それでは、次の放送までも、頑張って戦って生き残ってくださいね。脱出しようなんて無駄ですよ〜”


放送終了。
再び、静寂が戻ってきた。


さて、これから自分はどうするべきだろうか。唐津洋介(男子8番)とどちらがより多く殺すか競い合う約束をしたはい
いものの、あまり動きすぎると逆に体力が減ってしまうような気がする。
この試合は、多分かなりの長期戦になるだろう。坂本理沙(女子7番)のデイパックを持ってくるべきだった、あの中に
は理沙に支給された食料も水もあったのになぁ。僕だって、一応成長期なんだし。


 まぁ、いいや。今はパンでも食べておこう。


デイパックに手を突っ込み、中身をあさる。白い包装紙に包まれたそれを摘み、ガサガサと包装を解くと、中からいか
にも硬そうなフランスパンが出てきた。意外と大きいものの、1本しか入っていない。

「これ1本と水でどうやって暮らしていけって言うんだ。せめて2本にしてもらいたかったなぁ」

やれやれ、と一口かじろうと思ったものの。
ふと、人気を感じて司はデイパックに食料をしまいこんだ。
同時にソーコム・ピストルをズボンから抜き出して、撃鉄を起こす。弾は十分に入っている。

まもなく、噴水方面から一人の生徒、スカート姿だから女子であろう、がやってきた。

特徴と言えるのかどうかはわからないが、派手な厚化粧をしている生徒と言えば、まぁあいつしかいない。スリの名
人様の登場だ。

「あのさ、飯くらいゆっくり喰わしてくれよ」


 本当にそれは面倒そうに、成田玲子(女子13番)に向かって司は言った。







   【残り61人】



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