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 私は、ずっと苦しみ続けてきた。


私には、たしかに才能があった。人の隙をつく、才能。だから、小学校の時に流行った手品だって少し難しいのも簡
単にこなすことができたし、私はみんなの注目の的だった。
だけど別に私は手品師になるなんて考えてもいなかったし、手品ブームが去ってからはもうやっていない。注目の的
だった私も、普通の女の子に戻った。
中学校の頃、流行ったといえばくだらない遊びばかり。友達の持ち物を冗談半分で隠したりして、遊んでた。といって
も友達にはすぐにネタバレをしてあげたし、授業中に前の席の子の筆箱を本人に気付かれないようにすりとって、蛍
光ペンを借りたこともしばしば。

 私はすっかり普通の、ただ手先が器用な女の子に完全に戻っていた。

毎日が退屈な日々。一生懸命勉強しようとしてもやる気が起きない日なんて、勉強しないで別のことに集中していれ
ばいいんだ。まぁ、別のことといっても、たいしたことはなかったが。
だから私の成績は決して良い方ではなく、中学3年の一学期も他のみんなが最後の部活動に勤しんでいる間、私は
自堕落な毎日を過ごしていた。


 目標の無い人生って、つまらない。
 毎日が退屈で、あの日も私は河原の土手でねっころがっていた。


「あ、いたいた。玲子ぉ」

閉じていた眼をそっと開けると、土手の上から女子が走ってきていた。
ああ、あれは長谷美奈子(女子18番)だ。私が手品をやっていたとき、いつも最前列で眼を輝かせて見ていた女の
子。美奈子も私と同じ中学に入って、同じクラスになったことではじめは交流が盛んだったけれども、今ではちょっと淡
く化粧をしている、ギャルが入った女の子になっていて、最近付き合いは薄かった。

「ん、なぁに、美奈子?」

寝た状態からの視線だったので、美奈子のスカートはより短く見えた。ミニスカートブームといえども、(まぁ私も2回く
らいは折ってはいたけどさ)流石にそこまで短くするのはどうかと思った。だが女の子同士という意味もあるだろうけ
れども、美奈子はそのことを気にすることも無く、私の隣にしゃがみこんだ。

「ねぇ、玲子最近暇じゃない?」

その時の美奈子の笑顔。それが、悪魔の囁きだった。





 つまらない人生なんて嫌、今はスリルが欲しい。
 玲子の才能生かしてさ、ちょっと繁華街行って、スッてみなよ。
 大丈夫、玲子なら絶対にバレないって。





「すごいよ玲子。3万円も入ってる!」



「いや、そんなに苦労はしてないよ。おじさんの背広が少しあいててさ、そこにサイフがあったもんだから、ね」



「玲子、やっぱり才能あるね。楽しいでしょ?!」





まさか美奈子が裏切るなんて思っていなかった。犯行現場を全部カメラにとっていたなんて、知らなかった。
結果として私は停学処分になったし、推薦の話も無くなった。私はクラス中の嫌われ者になり、仕方なく美奈子につ
いていた。美奈子は自分がバラしたのだということは勿論言わなかったし、私も気付かない振りをしていたけれども、
全部知っていたんだ。美奈子の私に対する視線。その中に映る、嫉妬感。犯人は、美奈子なのだ。
でも私には美奈子たちのグループ以外に友達なんていなかった。今、リーダー的存在の美奈子を嫌ったら、確実に
私は独り者になる。どうすればいいのかわからなくて、耐え切れなくて、悩みを同じグループの朝見由美(女子1番)
に打ち明けた。
由美も美奈子に騙されたくちだ。援助交際が発覚して、美奈子諸共、いや、正確に言えば美奈子の巻き添えを食ら
って停学処分になったのだ。彼女には幼馴染の磯貝智佳(女子2番)がいたから、別に美奈子から離れても独り身に
はならないはずなのだけれども、まだ美奈子とは交流を続けている。

「別に、自由にすればいいんじゃない? 本人はあんたが真犯人を知っているなんて知らないだろうし、どうせ言った
ところでなんにもならないでしょ? それで何か得るものなんてある? 友達関係失うだけだよ」



 違う、違う、違う。
 あんな奴、私の人生を滅茶苦茶にした奴、友達なんかじゃない。



 でも、できなかった。
 美奈子の復讐を恐れて。





 だけど、今は違う。私はプログラムに参加している。勿論、美奈子も。
 私は美奈子に復讐する。復讐するまでは、死ぬわけにはいかないんだ。



 だから、死ねないから、私は橋本康子(女子17番)を無我夢中で殺してしまった。



 だから、粕谷。
 あんたも、殺さなきゃならないんだ。





 私は、支給武器の手投げナイフ(1ダース)を、そっと握り締めた。







   【残り61人】



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