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 意識して、人を殺すって、一体どんな感じなんだろう。


 唐津洋介(男子8番)との契約。簡単に言えば、クラスメイトの残り人数を減らし合うこと。
となれば、自分は成田玲子を殺さなければならないということになる。そうやって生徒を殺害する人物を、『プログラム
のすべて』という特別番組では、ジェノサイダー、と言っていた。

殺す側の人間、か。僕は、そう呼ばれるのかな。


「粕谷、だよね?」

「仰せのとおりですが、成田さん」

成田が、自分の方に唐突に何かを投げてきた。
ヒュンッ、と風を切る音がして、咄嗟に反射的にベンチから遠のいた司はそれが何かがすぐにわかった。
ベンチの背もたれに突き刺さっているもの、小ぶりのナイフだ。そこはつい先程まで自分がいた場所。かなりの命中
率といえる。流石はスリの名人。やるねぇ。

「ふぅん、そっか。成田さん、このゲームに乗る気満々なんだ」

「うるさい、黙れ黙れっ!! もう私は誰にも束縛されない! 誰にも頼らないんだ!」

また投げた。ナイフは司の真後ろの木の幹に当たった。

「逃げるな! 私は誰も苦しませたくないんだ! 一発で仕留めてやるから、抵抗するんじゃない!!」

「それはさ、僕に素直に死ねって言ってるんだよね?」

そのナイフは素晴らしい精度で司を襲ってきたが、すべて司は避け続けた。成田が利き手である右手を振りかぶる瞬
間、司は左右にぶれる。ナイフが手先から離れた瞬間左右どちらかに動けば、飛んでくるナイフを避けるのは簡単な
ことだ。
そうナイフが沢山あるというわけでもあるまい。

司は、冷静だった。

「そうさ、あんたが死ねば済む話なんだ! 私は美奈子に復讐する、そのためにはあんたの存在が邪魔なんだ!」

「言っている意味がよくわからないけれど、つまりは長谷さんを殺したいわけでしょ? ならなんで僕を襲うんだい?」

「あんたは私を殺すだろう! だから殺される前に殺してやるんだ! 私は死ぬわけにはいかないんだ!」

「あのさ、『殺す』と『死なない』は別だよ。でもさ」

7本目のナイフを避けたところで、司は右手をすいっと前に出した。その手に握られている拳銃。

「僕は君を殺すよ」







 タァン!!







 一発の銃声。

吐き出されたほかほかの鉛の弾は、まっすぐに成田玲子の方へ飛んでいき、彼女の口と鼻の間に命中した。そのま
ま弾は進み続け、脳幹を破壊。この時点で彼女は即死。弾はなおも進み続け、最終的には顔を貫通して、その後ろ
の電柱に当たった。
適当に彼女の方へ撃っただけなのに、見事に命中してしまった。

初めて撃ったとはいえ、なかなか今日は運がいい。

「さてと、成田さんのデイパックは……と、あったあった」

司は成田のデイパックを取ると、中から食料を取り出した。何故かわからないが2人分入っている。そうか、成田さん
も誰かを殺してたんだね。ありがとう、これで坂本さんの分も元が取れたよ。

「じゃ、昼にするか」

司は血生臭い公園を離れて、今度は街道の方へ歩いていった。




 後には、成田玲子の悲しい死体が残るのみ。
 そして、彼女が銃器による死亡者第一号と、なったのだった。





 女子13番 成田 玲子  死亡







   【残り60人】



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