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 佐久良浩治(男子12番)は、駒川大地(男子11番)が飛び降りた崖からさして遠くない、小高い丘陵の頂上、地図
で言えばJ=3に佇んでいた。ここからなら眺めもいいし、突き出た形になっているので誰かが来たら一発でわかるよ
うになっている。
少し視線を上げれば、高い位置に聳えている真っ白な灯台が視界に入ってくる。ここには誰かいるのだろうか、と思っ
たのだが、生憎この目立つ建物には誰も潜んでいないようだった。それに、ここに自分がいたら、もし誰かが来ても咄
嗟に応対することが出来ない。ならば、あえて手前の丘陵にいるべきだと浩治は自然に考えた。

 とにかく、今は動いてはいけない。

紅の光が美しかった夕日の輝きは今はもう見えず、代わりに水平線から月が既に昇ってきてしまっている。暗闇の中
で闇雲に動き回るのは大変危険なことであったし、もしかすると他のクラスメイトも駒川大地のように自分のせいで狂
ってしまうかもしれないのだ。

となると、朝が来るまであの灯台に隠れた方がいいのだろうか。あそこなら安心して盗聴器でみんなを探すことが出
来るし。ああ、夜だからみんな眠っているかもしれないな。
即実行に移す。この行動力の速さは、おそらくクラス内でも一位の座に輝けるだろう。
既に浩治は灯台に向かって歩き始め、舗装された道路をぶらぶらと歩いていく。これも、発見されやすいようにするた
め。いまいちやる気のある生徒がいるのかどうかわからない現状では(いや、いることはわかっているのだが、どうも
本物を見てみないと信用できないのだ)、下手に用心しない方が良いだろう。

 それが功をきたしたのだろうか。


「……浩治!」

突然、後ろのほうから声をかけられた。
流石に浩治はびくっとして、慌てて振り返る。万が一やる気である生徒かもしれないとしたら、と駒川の支給武器であ
った火炎瓶を右手に構えた。だが、即行動。すぐに浩治はそれを下ろした。


 夢ではない。現実だ。
 こんなに身長が高い生徒なんて、一人しかいないはずだ。


 そう、浩治にとって、かけがえのない親友。


「本条か?!」

身長190cmの長身。本条 学(男子30番)は、「おっス」と手を上げながら、走って近づいてきた。
まさか、こんなにあっけなく会えると思っていなかったのだ。もっと、ずっとずっと時間が掛かると思っていた。そう、盗
聴器の電池が切れるまで、もしかしたら会えないかもしれないと考えていたのに。その親友が、ここにいる。

「本条、会いたかったよ……! ずっと、探していたんだ」

「ああ。俺もな、死ぬ前にお前に会いたかったんだ」

その時だ。オルゴールがあたりに鳴り響いている。
2人で顔を合わせ、どちらでもないことを知り、辺りを見回したが、辺りには月光に淡く染まっている草が風になびか
れているのみ。人っ子一人見当たらない。
はっと気付いて、手首につけた政府支給の時計を見る。午後6時、放送だったのだ。


“さて、午後6時になりました。これまでに死んだ生徒の名前を発表します。まずは男子から。33番 雪野 満君”


「雪野……」

本条が呟いた。そんなに親しくなかったはずなのに、もしかして、何処かで会ったのだろうか。


“続いて女子。4番 恩田弘子さん、13番 成田玲子さん。以上の3名です”


「恩田も、成田も、か……」

やる気になると思っていた恩田弘子も、スリの名人の成田玲子も、みんなこのゲームから退場している。この点に関
しては、正直以外だった。人間、見かけによらないものなのかな。
ふと、ぞっとした。あれほどやる気になる奴なんかいないと最初の頃は思っていたのに、よくよく考えてみるとあいつ
はやる気だ、こいつもそうに違いないと勝手に決め付けている。もしかすると、この殺し合いという状況に、慣れてしま
ったのかもしれない。恐ろしいことだ。


“まぁ、これから夜になりますからね。寝ているところに奇襲をかければ間違いないと思いますよ。臆病な方は多分家
の中に隠れ潜んでいると思いますからね。それでは、禁止エリアの発表です。まずは午後7時からC=1、9時からI
=5、11時からD=9が禁止エリアになります。それでは引き続き頑張って下さい”


放送終了。オルゴールの音も消えて、波の音が微かに聞こえているだけだ。
地図で確認すると、どれも会場の端のようだ。I=5はここから最も近かったが、わざわざ通るようなところでもないだ
ろう。この6時間は、心配する必要はないということだ。

「雪野は、このゲームに乗るつもりだったんだ」

唐突に本条が言い出した。思わず、「え?」と突っ込んでしまった。
雪野満といえば、クラスでもあまり関わりがない生徒だった。その生徒がやる気だということは、一体どうやって?
やはり先程も彼の名前に反応していたことから、何処かで会ったのであろう。

「雪野に会ったのか?」

「……ああ。俺を狙って、茂みの陰からじろじろ見ていたんだ。結局、和解はしたんだけどな」

本条は唇をかみ締めている。
ああ、同じだ。駒川大地の名前が呼ばれたときと、全く一緒だ。

それは親友だからこそ、互いの感情がわかるというものであるし、その気持ちもよくわかるのだ。

「他には、誰かに会ったのか?」

「見かけただけだけどな、間熊がいた。拳銃をしっかりと握っていたから、声はかけなかったけれどな」

「間熊?」

間熊小夜子(女子25番)。ちょっときつめの性格の女子だ。おそらく『野良犬』の連中と対等に付き合っていけるくら
いの技量はある。それほど、彼女は潔いのだ。
その彼女が、拳銃をもともと持っているはずがない。おそらく、支給武器なのだろう。

 果たして、彼女はやる気なのか?

とにかく、自分は本条に会えた。それだけで満足なんだ、今のところは。

「まぁ、いい。今は灯台で夜を明かそう。行こうか」

「まぁた、唐突なんだな。別に構わない、行こう」

なんとなく、本当なら互いに喜び合うべきなのに、あまりにも呆気なく会ってしまったために、いまいち感情がわかな
い二人は、そのまま灯台へと向かっていった。





 プログラム開始から15時間34分。
 これから、寒い寒い夜が始まる。







   【残り58人】



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