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 E=6、市街地。
 時刻は、日付が変わるまであと30分の時。


友部元道(男子20番)は、右手にブローニング・ハイパワーを構えたまま、そっと家の陰に隠れていた。
誰かがここを通り過ぎたら、撃つ。そう、心に決めて。

牛尾 悠(男子4番)も、峰村厚志(男子31番)も逃した。きっと、今頃は自分がやる気であることなど、みんなが知っ
ているに違いない。だったら、当然、自分を見つけたら殺しに来ると警戒するだろう。





 そうなる前に。

 今度こそ、逃げられる前に。





じっと、息を潜めて隠れるその姿は、完全に闇に溶け込んでいた。
太陽が落ちてから、完全な闇になっているこの部分に、元道はずっと隠れていた。途中、かなり近くで大きな爆音が
聞こえたものの、それ以外には大した音はしていない。時折聴こえる銃声くらいなものだ。
こんな時間に移動をするなんて、よほどのことがあるとしか思えない。そう、例えば、殺しまわっている、とか。
どちらにしろ、殺してしまえばいいのだ。殺してしまえば、そんな相手の意思なんて関係ないのだから。

その時だ。風が吹いたせいかどうかはわからないが、家の庭辺りにある草がカサカサと音を立てた。もう何度も経験
した冷たい夜風。厳しい寒さに耐えながらも、じっと銃は手放さなかった。

 殺す。必ず、殺して、生き残る。

そう思い続けていた元道の感覚が鋭くなったとき、異変に気がついた。
風がやみ、草むらは音を立てるのをやめた。なのに、一部の草は、まだ揺れている。すなわち、それは誰かがいる証
拠。ブローニングの撃鉄を、そっと起こした。





 カサリッ。





草むらから現れたのは、月の逆光のせいでよく見えない。だが、スカートを穿いているのだろう、白い足が、覗いてい
た。つまり、女子だ。だが女子だからといって安心は出来ない。殺せ。
銃口を向けたが、その影は反応もしない。暗くて、よく見えないのだ。同時に、自分自身もよく見えないことに気がつ
いた。こんな状況で撃ったって、当たるはずがない。もう少し、近づかなければ。
いや、むしろ思い切って真後ろまで走ってしまえばどうだろうか。そしたら、逃げたって絶対に弾から逃れることなんて
出来ないのだ。我ながらナイスアイディア。
思ったら躊躇せずに行動する。そうしないと、ターゲットはどんどん先へ行ってしまうのだ。
一気に地面を蹴り上げて、走るその姿は、まるで忍者のように俊敏だった。小さな体が、まさかこのようなところで役
に立つなんて、思いもしなかった。

 だが。

「駄目、あなたも死ぬ」

その女子生徒が、突然振り返ったのだ。


 なんで? 自分は音を立てなかったはずだ。なのに、何故気がつかれたんだ?


同時に、その女子生徒、月光に照らされた間熊小夜子(女子25番)が自分に向けても銃、ジェリコ941を向けている
ことに気がついた。一瞬、それは信じられない光景だったが、だが無理矢理納得づけた。
自分が撃てば、間熊も間違いなく撃つ。そうなると相打ちだ。間熊を殺せても、自分が死んだのでは元も子もない。
間熊の目は、真剣そのものだった。

「間熊……は、誰か殺したのか?」

その目に危険を感じ、咄嗟に元道はそんな質問をした。だが、間熊の視線は変わらず、ジェリコの銃口も自分を狙っ
たままだ。隙がない。

「……多分。一人」

そして、返答。驚いた。
まさか、既に一人殺しているなんて……。
足が、自然と後ずさりを始めた。

「これ以上、無意味に殺したくないの。だから、逃げて」

「あ……あぁ…………」

目に吸い込まれそうになった。
彼女を恐れているのだと、わかった。

次の瞬間、元道は踵を返して走り始めた。振り返りもせず、ただ走った。
もしかしたら、その時自分は無防備だったかもしれない。間熊に撃たれていたら、間違いなく死んでいたかもしれな
い。だが、自分は撃たれてない、死んでない。
100mも走ったところで、ようやく息を吐いた。振り返っても、既に間熊の姿はなかった。



 完璧に、自分の負けだったのに。明らかに、落ち度は自分にある筈なのに。

 なんで、彼女は自分を殺さなかったのだろうか。





 まぁいい。情けは人のためならず。

 間熊が駄目なら、他がいる。



 必ず、生きて帰るんだ。







   【残り50人】



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