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 日高成二(男子28番)がこのデスゲームを退場してから、どうすればいいのかわからなかった。
 とりあえず彼女はここにいようと言ったけれども、このままじゃいけないと、思った。


秋吉快斗(男子1番)は、エリアG=4に位置する民家で、ずっと迷っていた。出発時から共に行動している湾条恵美
(女子34番)は、今は眠りこけている。月の光が、開きっぱなしの窓から差し込んできていた。

「……静かだな」

ふと、そんなことを呟いた。

放送が鳴ってから間もなく3時間が経過する。そろそろ、エリアF=6が禁止エリアになる頃だ。確かこの区域には島
の中では大きめのマンションが立っていた筈だ。もしかすると、そこに潜んでいる生徒達は一斉にこちらに向かってき
ているかもしれない。
だが、その可能性は少ないだろう。実際、このエリアG=4も周囲は結構禁止エリアが点在している。
こんな状況だというのに、この殺し合いを強要されている島内は静かだった。流石に波の音までは聴こえなかった
が、港の方に行けば嫌というほど聴けるだろう。

 とにかく、静かだった。それが、妙に隣ですやすやと寝息を立てている恵美とマッチして。

変なことかもしれないが、この雰囲気が、いつまでも続いて欲しいと思ったりもした。正直、恵美が隣で寝ているなん
て光景、初めてだった。

この恵美を、失うなんて。そんなこと、耐えられない。
なんとか、しなければ。なんとかして、この最悪のデスゲームから脱出しなければ。
だが、そんなこと、出来る筈がない。過去にはそんな事例もあったようだが、それも自分達が物心つく前の話。それ
に、自分には関係ない話だと思っていたのだから。

「……どうしようかな」

答えのない質問を、寝ている恵美に問いかけた。当然、この程度の声量では恵美は起きない。
辺りを警戒するのにも、もう正直飽きてきた。だが、集中力を欠いた瞬間、寝首をかかれる恐れだってあるのだ。やる
気である生徒が(信じられないことだが)いるのは、既にわかっているのだ。





 タァン!





闇夜に、突然銃声が鳴り響いた。
これまでに、何度も聴いたことのある銃声。

「……近いな」

その突然の銃声に、快斗は心臓がひっくり返るくらい驚いたが、だが既にそれはもう慣れた。いや、正確には体が瞬
時に反応するようになったということか。慣れる筈なんてないじゃないか。
その銃声はかなり響いていたので、恵美も欠伸をしながら起きていた。

「……何? 今の、銃声……?」

「ああ……それも、かなり近い」

恵美の顔が強張る。命の危険に脅かされた経験は一度。まだ、一度しかない。
襲ってきた福本五月(女子19番)の顔を思い浮かべながら、快斗は決心した。

「助けに行こう、恵美」

「……え?」

「もしかすると、まだ逃げてるかもしれない。行こう」

福本だって、本当はこんなデスゲームに参加したくなかった筈だ。多分、この銃声の主も、きっと。
説得しよう。説得すれば、きっとわかってくれる筈だ。

「……快斗が、そう言うなら」

ゆっくりと頷いてくれる恵美を見て、快斗は急いで家を出た。恵美も後に続いてきた。
玄関口に転がっている福本五月の死体を乗り越えて、快斗は走った。

きっと、まだ間に合う筈だ。まだ、多分。
銃声の聴こえた方向に向かって走り続けた。大丈夫、こっちはまだ禁止エリアじゃない筈だ。
そうやって走っていると、後ろを走っている恵美が、叫んだ。

「待って!」

立ち止まって、振り返る。恵美が、情報端末機を右手に掲げている。
まさか、そんな。

「もう、遅いみたい」

「誰が……犠牲になった?」

「……増永さん」

増永弥生(女子27番)。友部元道(男子20番)と付き合っていて、どうやったらもっと近付くことができるのかと、自分
達にアドバイスを求めたりしてきた、ロングヘアーの彼女。
孤独に死んでしまったのだろうか。それとも、あるいは自分達のように、友部も一緒だったのだろうか。





 パンッ……。





銃声とは異なる、小気味良い音がした。それは、一種パーティなどで使うクラッカーが破裂したときのような、軽い音
だった。だが、そんなものがこの場で鳴る筈がない。
音が鳴った方向を向いて、そして体が凍りついた。そこに立っている、男子生徒を見て。

友部元道が、地面に倒れている女子生徒の体を、じっと見つめていた。そのロングヘアーから、その女子生徒が一
体誰なのかは、簡単に予測できるわけで。

「なんでだよ……どうしてなんだよ、友部!」

快斗は、叫んだ。
この状況で、この光景を見て、友部元道が何をしたかなんて、一目瞭然だった。

「……秋吉君に、湾条さんだね?」

友部が、こちらに気がついたのか、引きつった笑みを向けていた。
その手が、地面に落ちていた無骨な塊を持ち上げるのが、月夜に照らされてはっきりとわかった。今夜は、どうやら
相当明るいらしい。
友部が、右手にブローニングを掲げるのを確認して、快斗は咄嗟に恵美に向かって叫んだ。

「逃げろぉっ!」

カチャリ……と、友部が撃鉄をあげる音が、聴こえたような気がした。





 どうやら、夜明けまでの道のりは、まだまだ遠いようだ。







   【残り48人】



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