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 時は少し遡る。


 佐久良浩治(男子12番)は、米原秋奈(女子23番)が軽トラで出発したのを確認すると、震える手をそっと腹部で
押さえ込んだ。そう、それは緊張。

 あと少しで、自分達はこの殺し合いから解放される。そう思うだけで、心が高ぶった。

親友の本条 学(男子30番)も、珍しく歯を見せて笑っている。そう、それだけこの作戦は上手くいってたのだ。後
は、爆音と共にプログラムが強制的に終了するのを待つだけだ。
浩治も、嬉しくなって衝動的に駆け出した。

 それが、命を救った。





 パァン!





突然、一発の銃声が当たりに鳴り響いた。銃弾は浩治の肩を掠って、何処かへと飛んでいった。
何がなんだかわからないまま、浩治は激痛に襲われた。だが、もしも自分が衝動的に走っていなかったら、その銃弾
は間違いなく浩治の心臓を貫いていたのだ。その点では、彼は命拾いをしたといえる。

「だ、誰だ?!」

そして、浩治は瞬時にそう叫んだ。同時に、本条が、そして砂田兄妹も身構えた。
浩治は続けた。

「……誰だか知らないけど、俺の話を聞いてくれ! もう戦う必要はないんだ!!」

その時、突然放送が流れ始めた。時計を見る暇はなかったが、どうやら午前6時になったらしい。
相手は自分達が戦う意思がないから安全だと思ったのだろう。どうやら放送を聴くことに専念するらしい。



 大丈夫だ。放送中に、相手は異変に気付くはずだ。



既に、浩治は放送を聴いてはいなかった。どうやら道澤は、死亡した生徒の名前を発表しているらしい。
だが、すぐに異変が起きた。







 ドゴォォ……ン!!







「やったぜ!!」

砂田利哉(男子14番)が、その音を聞くなりそう叫んだ。浩治も、飛び上がりたい衝動に駆られた。
さぁ、まずは相手を説得だ。

「な? 聴いただろ、今の音? これでゲームオーバーだ、もう俺達は戦う必要はないんだよ!!」

ガササッ、と音がして、茂みが割れ、そこから一人の男子生徒が姿を現した。
その右手には銃を構えているが、それはおそらく威嚇であろう。本当に容赦がないなら、すぐに撃ち殺しているはず
だ。……まぁ、左肩の掠り傷はチリッと痛んだけれど。

「唐津……!」

その人物、唐津洋介(男子8番)は凍てついた目をこちらに向けたまま、その爆音がした方向を窺っているようだっ
た。やはり気になるのだろう。

「本部だよ、俺達……爆弾作って、本部に突っ込ませたんだ。今頃本部は駄目になってる」

「ああ、今の爆音は、爆弾を積んだ軽トラが本部に突っ込んだ時のだ。脱出しようとしていたんだよ!」

利哉が続けてそう言った。
そう、まずは銃口を下げることが大切だ。自分達を信じてもらうことが大切だ。

だが、唐津は銃口を下げなかった。
決定的な証拠が出てくるまで、そのままでいるつもりなのかもしれない。

その時だ。先ほど爆音が聞こえた、つまり本部の方角から、銃声が一発した。それは爆音に比べれば情けないほど
か細かったが、だが銃声だった。


 ……どういうことだ?



“はぁーい、それでは禁止エリアを発表しますね。7時からH=2、9時からD=5、11時からJ=9がそれぞれ禁止エ
リアになりますよ”

「な、なんで……?!」

砂田利子(女子8番)が、慌ててそう言った。
そう、ありえない。本部の人間は全員死んだはずだ。あれだけの爆発だ。生きていられるはずがない。なのに……な
のにどうして?!
目の前で銃口を向けている唐津の目が、いっそう厳しくなった気がした。


“残念ねぇ、可哀相に。あと少しで私達を殺せたのにねぇ、でも生き延びちゃったから、主謀者は射殺しちゃったわよ
……名前は今度の放送で呼ぶけどね”


「そんな……秋奈が……」

「米原が、殺された?」

信じられなかった。あんなに自信満々に行動していた米原が、絶対に帰ってくると宣言した米原が、もう死んでしまっ
た……だと?

「嘘だ!!」


“嘘じゃないわよ。だけどね、貴方達はやってはならないことをしてしまったの。わかるよね? 私達を殺そうなんて、
無駄な足掻きはやめなさい! ……そういうわけで、3年A組の皆さんには、ちょっとしたペナルティを与えたいと思い
ます。よく聴いておいた方がいいわよ”


足が、震えていた。
首輪には盗聴機能がついている。これは米原から教わったことだ。となると、今の返事は間違いなく自分達に向けら
れたもの、即ち、自分達がプログラムでやってはならない反則事項をしてしまったということだ。

 つまり……殺されるのか?


“本来なら、全員の首輪を爆破させて強制終了させるところだけれど、そんなことはしない。そんなことしたら、つまら
ないじゃない。ああ、勿論主謀者の仲間も殺すことはしないから安心してね。それでは、今から特別ルールを発表し
たいと思います!!”





 特別、ルール?





“今から6時間後、つまり次の正午の放送までに、まだ戦闘実験に反対して殺していない人は、誰か1人でもいいか
ら殺してください。勿論今までに誰かしら殺している人は対象外です。未だに誰も殺してない人、その人達のタイムリ
ミットがあと6時間ということです。あと6時間以内に、必ず1人以上殺してください。さもないと”




 空白。




“その対象者全員の首輪を爆破します”





「……嘘だろ?」


“それじゃ、頑張ってね! みんな隠れてばかりいないで、少しは運動しなさいよ!”


ブツンッ、と放送が切れた直後、浩治は崩れ落ちた。
とんでもないことになってしまった。みんなを助けるつもりだったのに、それが逆にみんなを陥れることになってしまっ
た。そう、制限時間付きの、運命の時を。



 隣にいる唐津の存在が、やけに大きく感じた。

 その右手に握られている銃口は、全てを吸い込んでしまいそうなほどに、広かった。





 ―― 全てを諦めたとき、人は全てを許せるようになる。







 もう、いいよ、唐津……。



 俺は、疲れた。























 パァン!





 男子12番 佐久良 浩治  死亡







   【残り44人 / 爆破対象者37人】



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