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 もう、彼しかいない。
 彼しか、信用できる生徒はいない。


「はぁ……はぁ……」

 エリアE=2に差し掛かるのがわかった。右手に握っている探知機には、どうやら周りには誰もいないことを示して
いた。それを見て、とりあえず少女は走る足を止めた。
ふぅ……、と軽く息をつくと、震えている足をなんとか押さえ、その場に崩れ落ちるのだけは防いだ。冗談じゃない、こ
の場で崩れ落ちるだなんて、その間に追いつかれたらどうするんだ。
だが、辺りに耳を澄ましても、特に物音は聞こえない。恐らく自分は相当な茂みを書き分ける音を発していた筈だった
が、勿論追いかけてきている相手だって音は出るだろう。ということは、静かに近づいてきているか、あるいは追って
きていないかのどちらかだ。

 砂田利子(女子8番)は、薄暗い木々の間に、不安に襲われながら彷徨い続けていた。

「お兄ちゃん……」

兄であった砂田利哉(男子14番)、出発したときから一緒に行動していて、だから自分は平静でいられた。どんなに
悲しいことがあったって、利哉の存在があたしを支えていてくれた。
だけど、そんな兄は友人である筈の粕谷 司(男子7番)にいともあっさりと裏切られた。粕谷が放った1発の銃弾。
崩れた利哉。あの状況で、兄が生きている筈がない。そして、今度はあたしの番だ。



 そう感じた瞬間、一気にあたしは駆け出していた。

 ただ、がむしゃらに走り続けた。



振り向いたけれど、もう粕谷は追ってきてはいないようだった。だけど、これではっきりとした。このゲームに参加し
て、積極的に殺しまわっている生徒がいるということ。そう、多分粕谷や唐津洋介(男子8番)だけではない。もっと、
他にも沢山の生徒が、同じことを考えているに違いない。

 そして、特別ルール。

脱出を企てたグループは、今やもうあたししか残っていない。そう、全てはあたしの責任なのだ。脱出案を聞いたと
き、あたしは他のみんなも仲間にする決意をした。探知機があったから、あたしは脱出のことを知ったし、仲間も集め
ることに成功した。だけど、結局はそのせいで特別ルールが追加されて、そして脱出班はあたし以外の全員が死ん
でしまう結果となった。

 悔しかった。何も出来ない自分が、悔しかった。

どうしてだ、あたしの首輪を今すぐに爆破すればいいことだろう。どうして、政府はクラスメイト全員にその責任をぶつ
けようとしているの?
そう、全てはあたしの責任。あたしが罪を償うべきなんだ。

何も出来ないけど、信用できる人に会いたい。そう、その人物とは。



 ぱららららららっ。



突然、その目的地付近で銃声が聴こえた。
それはこれまでのものとは全く違う、連続した射撃音。マシンガンか何かだろうか。

急いで探知機を確認する。ここよりやや北西方向、男子が2人。23番と、13番……1人は奈木君だ。もう1人は誰な
のかはすぐには思いつかない。
ふと、兄の利哉が14番だったのを思い出す。そういえば佐久良君も12番だった。となると……。


 奈木和之(男子23番)、島野幸助(男子13番)。


大丈夫だ。奈木君はさっき会っているし、島野君はいつも優しくしてくれていた。
うん、信頼できるはず。なのに、なんで銃声が?

「や……やっちゃったぁ……! どうしよう?!」

急いでその場に駆け寄ると、そこには悲惨な光景が待っていた。
マシンガンを構えたまま、そしてその銃口から煙が出たまま、奈木君は立っていた。その目先に、全身に穴を開けて
横たわっている生徒、もう死んでいるのだろう、島野君がいる。
それを見た瞬間、今まであたしが耐えてきたもの全てが流れ出るような気がした。
急速に、感情が冷めて、また別の感情が熱くなるのがはっきりとわかった。

「信じてたのに……」

その言葉を発した途端、奈木君があたしの存在に気が付いたのか、銃口をあたしに向けて、そして、降ろした。
その足が、震え上がっている。

「……砂田さん!」

「奈木君は大丈夫だって……信じてたのに!」

頬を、一筋の涙が流れている。溜まっていた感情が、全て出てきていた。
奈木君が、その場にへたりと座り込んだ。

「信じてたのに!!」

「違うんだ、待ってくれ! 砂田さぁん!!」



 その言葉も聞かずに、あたしはまた駆け出した。

 もう、誰も信じたくなかった。少なくとも、誰も信じられなかった。



 一番信じていたのに。

 大好きだったのに。



 なのに。

 なのに。

 なのに。



 ねぇ、どうして?









 どうして、誰も信じられなくなっちゃったの?





 男子13番 島野 幸助  死亡







   【残り41人 / 爆破対象者33人】



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