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 これから一体どうすればいいのか。自分は一体何をすればいいのか。
 人の気配が全くわからない虚無の空間の中で、正樹は一人考えていた。


テツの死体は見つけた。後は、もう一人の生き残っているシュウを探すだけだ。それはわかっている。
だけど、闇雲に探したって到底見つかるとは思えない。既に自分の余命が5時間にまで減ってしまっている以上、こ
れ以上時間を無駄に過ごすことはできないのだ。ましてや探している相手は動き回っている可能性もあるのだ。死亡
という形で動けないテツならともかく、動いているシュウを探すのはかなり至難の業と言える。
だが、所詮考えたところで結論が出るというわけではない。自分が今まで行動してきたように、相変わらず自分も動
き回るだけだ。運がよければシュウに会える可能性はある。だが、会えなかったらそれまでだ。5時間後にこの首を
吹っ飛ばされるか、あるいはその前に誰か別のクラスメイトに殺されるかだけなのだ。
少なくとも後者は絶対にあってはならないこと。最後まで、希望を捨てるわけには行かない。とはいえ、その希望とい
うものも最終的には死を迎えることになるのだから、希望とは決して言えないわけだが。

 だけど、最期くらいは親しい友と一緒に死にたいものだ。笑って、死にたかった。

自分に支給された武器は未だにデイパックに入れたままだ。もとより自分はこのゲームに参加する意思なんて持ち
合わせていなかったし、むしろ相手がやる気であろうとも説得する気でいた。だけど、武器をこの手に持っていたら決
して相手は信じてくれないだろうと考えて、確認してからは一度も取り出していない。

「おめぇ、誰だ?」

答えの出ない問いを考えていたら、唐突に背後から声が聴こえた。一瞬肩がびくんと震えるのがわかったが、ここで
動じてはいけない。正樹は、そっと振り返った。

「遠山だよ」

「なぁんだぁ、遠山かぁ……よぅし……」

振り向いた先には、一人の男子生徒が立っていた。いかにも不健康そうな顔。浮かび上がった隈は白い肌にくっきり
と浮き出ていて、寝不足なのだということが目に見てわかった。

 彼、関本 茂(男子15番)は、その寝不足気味の顔を笑みの形にしていた。

「まず一つ聞く。おめぇの武器は何だ?」

「……聞いてどうするのさ? 僕と協力して欲しいのかい?」

まさか。大して親しくも無いのに、この状況で仲間を求めるなんておかしな話だ。
もしも仲間になって欲しいと言われたとしても、賛同することはできそうに無い。
案の定、関本は笑みをさらに吊り上げて、クヒヒ、と怪しげな声を洩らしていた。

「いんや、そんなことは考えてもいない。ちょっと確認しておきたかったんだ。銃とかじゃないよな?」

「……銃…か。まぁ、違うんじゃないかな」

「そりゃあよかった。なら、突然俺が殺されちまうなんてこたぁ、ないってわけねぇ」

よくわからない。僕の言うことを簡単に信用しているくらい、焦っているとでも言うのだろうか。別に関本の演技力がと
ても上手くて、この奇怪な言動も演技だというのなら納得できないわけではないが。

 だけど、信用は出来なかった。

「関本君は、なんだったのさ?」

「んぁ? あぁ、俺の武器ねぇ? 俺は実験用のこ〜んな黒い箱を貰ったよ。レーザーだとさ」

レーザー……ああ、つまりは理科の授業で使うレーザーポインタのことだね。目潰しにも使える代物の。
だけど、そんな直接的に人を殺すことが出来ない武器を支給されているというのに、どうしてこんなに堂々としていら
れるんだろうか。つまり、それは既に別の……。

「うらぁ!!」

その雄叫びとともに思考は中断された。瞬間的に体が、生存本能が反応して、眼前に振り下ろされたそれを咄嗟に
避けた。少し遅れて、ガキッ、というアスファルトを砕く音が、聴こえた。
ふぅ、ふぅ、と息を洩らしている関本の目は、完全に充血していた。

「なに……するんだよ?」

「確かに俺の支給武器はレーザーだった。だけどこんなもの使えねぇって思った。だから俺はその辺の家でこいつを
手に入れた!」

関本が両手で握っているのは、ゴルフなどでよく使う、そして強力な鈍器にもなる七番アイアンだった。
そして、第二打が襲い掛かってきたが、来るとわかっているものを避けられないはずはない。

「どうして、クラスメイトを殺そうとするんだ!」

「知らねぇよ! 俺だってホントは殺す気なんて最初は無かったんだぜ! だけど……」

「だけどなんだ?!」

「特別ルールだよ! 知ってんだろ、なぁ?! あれのせいで殺さなきゃいけなくなったんだよ!!」


 そんな。


そう、次の放送までに、誰かを殺さなければならないというなんとも理不尽なルール。それが、関本茂という1人の男
子生徒をやる気にさせたのだ。
いや、それだけじゃない。きっと、きっともっと、もっと沢山のクラスメイトがこんな風にやる気になって……。

「うぁ……」

完全に関本はやる気だった。絶対に殺してやるという、強い意志を持っていた。
自分はやる気ではない。生きるために戦うとしても、こんな軟弱な意思では……。



 勝てない。





 死ぬんだ。





「うわぁぁぁぁぁぁっっ!!」



「くそっ、待ちやがれ!!」



 だから、逃げるしか方法は無いんだ。

 逃げなかったら、殺されるんだ。戦ったって、死んじゃうんだ。



 だから、逃げる。

 生きるために、逃げる。







「誰か、誰か助けてくれぇぇぇぇっっ!!」







   【残り41人 / 爆破対象者33人】



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