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 3人目の、過去の話。


「ナイスピッチング、サチ!」

 キャッチャーであるC組の樋口葉子が、ベンチに入る俺の肩を叩いた。
俺もからかいのつもりで、葉子の肩にどつきかえした。そして、2人で大笑いする。そう、それは、地区大会の3回戦
での出来事だった。
葉子とバッテリーを組んだのは1年の時だった。体格がよかった葉子を、俺は最初は先輩だと思って間違えたことも
あった。そして、ついはいてしまった毒舌が葉子に聞かれて、大喧嘩になったこともあった。
だけど、昨日の敵は今日の友とでも言うべきだろうか。以来、俺と葉子は互いに互いを伸ばしあう形となった。

「もうちょっとカーブ、曲げられないかな?」

「無理言うなよ。野球みたいにそうホイホイホイホイ曲がるわけじゃないんだ」

「あら、そうかしら? サチならもっと出来そうな気がしたんだけど、期待はずれだったかな?」

「な、なんだと?! お前だって切れ味のいいカーブ、受け損ねたじゃねーか。お前こそ期待はずれだ!」

「な、なんですってー?!」

そんなことを言い合っては、互いに互いの技術を高めあう日々が続いた。いつしか、2人は素晴らしい技術を持つよう
になっていった。
もともと男勝りな俺は、よく男と間違えられることもあった。性分としてスカートなんてものは制服以外で穿いた事がな
かったから、よく葉子と2人で歩いていると、変なバカに冷やかされたりもした。
そう、葉子は、俺の大切な、親友だった。
3年の時のクラス替えでも、結局葉子と一緒になることはなかった。代わりに、同じソフトボール部では野村君江(女
子16番)、利島千春(女子12番)、曽根美鈴(女子9番)、そして牧野涼子(女子24番)の4人が一緒になった。全
員補欠以上だったので、自然と会話も多くなった。ただ、その分、葉子との会話も減ってしまったが。


葉子は今、どうしているだろうか。
俺がプログラムに巻き込まれたことを知って、悲しんでいるだろうか。俺が死んだら、泣いてくれるだろうか。

どうすればいいんだろう。始まってから、未だに死体しか見つけることは出来ていない。少しでも同じソフトボール部の
仲間を探そうと、銃声がしては危険を顧みずその場所へと急いだが、何処も死体しか残っていなかった。
幸いまだソフトボール部の仲間は誰も死んでいなかったし、他のクラスメイトが減る中それだけ見つけやすくなってい
るはずだったが(まぁ、その言い方は酷いかもしれないけどな)、未だに発見には至っていない。
でも、俺は見つけなくちゃならないんだ。見つけて、そして、守らなくてはならないんだ。


 6時間ルール?

 知るか、そんなの。結局、死ぬんだ。
 どんなに足掻いたって、結果は同じなんだ。


だから、野村を見つけた今。
俺は、彼女を助けなくてはならないんだ。そう、今まさにその手に握るヌンチャクでとどめを刺そうとしていた武藤雅美
(女子29番)を、追い払わなくてはならないのだ。
生憎俺のデイパックに入っていた支給武器は10mのロープで、そんなに威力はないかもしれない。頼れるのは、日
頃から葉子と2人で鍛えてきた、この体だけだ。

「お前、今……殺そうとしただろう!!」

「違う! 私は、私は……」

「なにをしらばっくれてるんだ!! 俺は見たんだぞ!!」

「……ぅぁ、ぁぁ……ぁぁぁあああっっっ!!!」

すると、突然武藤がヌンチャクを振り回して俺に突っ込んできた。だけど、極度に疲れてでもしているのだろうか。全然
動きに切れがない。まぁ、武藤雅美という生徒に関する情報と言えば、勉強が出来て、体力のない奴というものとか
ない。もう、疲れ果てているのだろう。
俺は身を屈めて難なくそのヌンチャクを握る手を捻り上げた。悲鳴をあげる武藤の口を押さえて、そのまま地面に押し
倒す。顔を地面に押し当てて、俺はヌンチャクを奪い取った。

「何をしているんだお前は?! わかっててやってるのか?!」

むーむーと呻く武藤。だけど、今この手を放したら、また襲い掛かってきそうな気がして、不安だった。
この暴れるじゃじゃ馬を、どうすればいいのか。
くそ、と辺りを見回す。


 その時だ。





 何か、赤い棒状のものが、こちらに投げられてきているのに、気付いた。



 あれは。







   【残り41人 / 爆破対象者33人】



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