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 そして、4人目。
 そもそもの、元凶の物語。


 曽根美鈴(女子9番)は、立ち止まっていた。
爆発の音はした。私の罠にまんまとひっかかった野村君江(女子16番)は、間違いなく死んだ筈なのだ。そう、私が
デイパックをそれとなく地面に下ろし、そして、白い箱を安置した。そう、その位置に立った君江を殺す為に。
美鈴の武器は、白い箱。その中には、小型爆弾が仕掛けられている。手元にある起爆スイッチを押してしまえば、中
身が弾け跳ぶ仕組みになっているのだ。
とりあえず、美鈴がとった行動はこうだ。この武器を使うときがいつか必ずやって来る。それまでは、自分は生き残っ
てなくてはならないのだと。だから、山道や森の中など、なるべく他の生徒と遭遇しにくいような場所を歩き続けたの
だ。幸い、他の生徒に会うことはなかったし、また見つけられて襲われるといった事態も起こらなかった。

そして、運命の放送の時が来た。特別ルールが、告げられたのだ。
まず、美鈴は同じように林の中を歩き続けた。しかし、今度は隠れるのではなく、獲物を探す為に大胆に。案の定、
簡単に君江は私を見つけてくれた。
この時点で、美鈴の勝ちは確定したようなものだった。もともとこんな林の中にいるということは、積極的にやる気で
はないということだ。そして、わざわざ話しかけてきたというのなら、相手は私を殺そうとしているのだということくらい、
容易に想像できる。君江もそうだ。同じ部活で、共に過ごした期間が長かったのだから、相手の心理くらいはたやすく
読めた。
そして始まった奇妙な会話。君江がこちらの様子を窺っているのは簡単だったし、まぁ多分向こうも同じことを感じて
いたのだろう。だが、支給武器が銃でない(もしも殺す気で銃を支給されていたのなら、撃って来ている筈だ。もっと
も、だからこそ茂みの中に立って全身を曝け出すことはしなかったし、森の中の天然の障壁を利用して逃げることも念
頭には入れておいたのだが)とわかった以上、君江は私を殺す為にここまでやって来る筈だと踏んだ。そこでさりげな
くデイパックから白い箱を取り出し、地面に安置したのだ。そして、さっさと会話を切り上げて君江から逃げる素振りを
する。当然向こうは私を逃がすまいとやってくるから、そこで……ボン、だ。

そう、それで死んだ筈なのだ、君江は。
だけど、なんだろう、この胸騒ぎは。どうして、心は晴れないのだろうか。


 美鈴の家庭は、円満とは程遠い世界だった。
いつも仕事帰りが遅い父。なに、浮気だ。酒に酔って帰ってくる父の背広を取ったとき、シャツに唇がついていた。そ
のことについて問いただしたら、いきなり殴り飛ばされて、そして脅迫された。
母は母で夜遊びによく出掛けていた。ブランド物のバックやら何やらを買い漁り、父のことについてなんか全く気にも
留めていないようだった。もともとその美しさで父を虜にしたのだ。父なんてどうでもいい。金が全ての、腐りきった母
親だった。
弟は弟で、家に引きこもってネットゲームなるものをやっていた。食事時にも顔を出さず、いつも一人で寂しい夕食が
続いていた。だから、ソフトボール部で遅くまで練習して、その鬱憤を晴らしていたのだ。
強くなりたい。強くなりたいと、美鈴は心から願っていた。この世界は腐っている。家族さえも信じられない。信じられ
るのは、己の身のみだ。なんでも、自分で切り開いていかなくてはならないのだ。
きっと、私がプログラムに選ばれたからといって、家族は何も思わないだろう。これまでどおり、父は浮気をし、母は豪
遊して、弟は引きこもり続けるのだ。私なんて、いてもいなくても変わらなかったのだ。

そう、信じられないという信念が、美鈴を悩ませたのだ。
信じられない。100%ではないのだ。確実に君江が死んだという証拠は無かったのだ。

ああ、私はなんてことをしてしまったんだ。君江が死んだという証拠は何処にもないじゃないか。きちんとこの目で、私
が殺したという事実を確認しなくてはならなかったのだ。
もしもあの爆音を聞いて誰かがやってきていたら、そして君江が仮にも生きていたとして、彼女にとどめを刺すような
ことがあればだ。そうなると、私は。

はっ、と気がついて、美鈴は踵を返して歩き始めた。
駄目だ。まだこの戦いは終わっちゃいない。君江の死を確認して、全てはそれからだ。君江を殺したからって私が生
きて帰れるというわけではない。私は、生きて帰るんだ。これからも、他のクラスメイトを殺して、その度に生き残るん
だ。なにを安心していたんだ、私は。バカじゃないか。
何処までも続く同じような木々の景色。すっかり歩きなれた今となっては、歩くのも容易だった。
茂みを掻き分け、コンパスの方角を頼りに、先程私がいたあの場所へと、足を急がせた。

そして、あの始まりの場所へ感覚的にあと少しだというところで。



 突然、爆音が辺りに響き渡った。






   【残り41人 / 爆破対象者33人】



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