95



 気が付いたときには、引き金を絞ってしまった。
 頭が、かーっと熱くなって……そして、悔しくて。


「遠藤!!」

悟は、マシンガンをほっぽり出して保美へと駆け寄った。放たれた弾は全部で6発。全て、保美の体に命中した。
崩れ落ちた保美は、まだ意識があったものの、それも残り少ないということは、目に見えてわかった。

「大丈夫か、遠藤!」

「与木君……」

うっすらと目を開けて、保美は笑っていた。内臓器官はぐちゃぐちゃに破裂している。悟は保美を探している間にも、
様々な死体を見てきたが、ここまで酷いものはなかった。
足元が、崩れていく。体の心から、冷えていく。

「遠藤……すまない……」

「与木君……ゴメンネ……」

謝っても済まない事だ。見る見るうちに、保美の顔が白くなっていく。血の気が、失せているのだ。
そう、俺が……撃ったのだ。保美をこの手で、撃ち抜いたのだ。

「どうして謝るんだよ……!」

「ゴメン、私……与木君は嫌いじゃない。だけど」

「だけど?」

「沖田君が死ぬのも、嫌だったから。だったら、代わりに」

「ふざけるなよ……どうして……!」

保美は、笑っていた。どんなに痛むのだろうか。どれだけ苦しいのだろうか。だけど、保美は笑っていた。

「いいの。私が選んだことだから……いいの」

沖田は、そこに立ったままだった。保美が邪魔をしなければ、恐らく死んでいたのに。
呆然としている沖田に、保美が声を掛けた。

「沖田君……」

「なんだ?」

「お願いが……あるの。いいかな?」

沖田は、黙っている。そして、そのまま近くを横切った。だが、もう沖田を殺してしまおうなんて考えは、浮かばなかっ
た。もう、全てに対して無気力だった。

「……なんだ?」

「どうか……どうか、人を信じて。そして、心と心で……会話して」

「……それだけか?」

「……ありがとう。じゃあね……」

手の中で、保美は力を失った。その顔は苦しみの表情を浮かべていた。痛みに耐えていた、そんな感じだった。だけ
ど、何処か満足気な顔でも、あった。
涙が、こぼれてくる。真っ赤に染まった両手を、この目で見つめる。



 『この銃で、お前を守ってやるんだ』
 『お前が……好きなんだ』



俺が、殺した。この手で、殺した。
俺が……俺が……。





「お前を生かしとくわけには、いかない」




頭に、硬いものが突きつけられた。
はっと気が付いて、振り向こうと思ったときには既に、悟の意識も吹っ飛んでいた。




ぱんっ、という単発の銃声。
アラバイダ9ミリ・サブマシンガンから吐き出されたたった1発の弾が、与木悟の命をもぎ取った。










「俺は……間違ってない。間違ってるのは、お前達だ」










  男子34番  与木 悟
  女子 3番  遠藤 保美  死亡




   【残り32人 / 爆破対象者22人】



 Prev / Next / Top