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 エリア I =4、崖。
 時計の長針は9の文字盤を指し示した。


 残り時間が15分を切り、牧野涼子(女子24番)の焦りは最高潮にあった。一体、今からどうやって人を殺せばいい
のか、武器も長谷美奈子(女子18番)に奪われてしまった今、何をすればいいのか、もう既に、涼子の頭の許容範
囲は軽く超えてしまっていた。

 そして、強烈な痛みを放っている左肩。


 あーもぉぉっっ!!
 マジムカつく! 何あの女、信じられないっっ!!
 あの女が長谷に殺されてホンッット清々したよ、くっそぉぉー!!


左肩の傷は、出血量こそ少ないものの、丁度骨に弾が突き刺さった状態になっていた。だから涼子は未だに左腕を
動かすことなど出来なかったのだが、それは痛みのせいだと認識している辺り、涼子はおろかだった。
右手で左肩を支えつつ、涼子はふらふらと放浪する。あの女、間熊小夜子(女子25番)が油断して長谷に絞め殺さ
れている間に、命からがら逃げ出して今に至るのだが、本当に命からがらだった。むしろ、真面目に命が危ない。

頭痛がしてきた。血を失いすぎたのかもしれない。喉がからからだ。あれ? デイパックって何処に置いてきたんだっ
け? ああもう、何も思い出せない。思い出すのも面倒だ。
それにしても、長谷の奴、追ってくる気配がないな。もしかして、あたしがここにいること、わからなかったりして? そ
ーだよねー、まさかこんな怪我しててもう森から抜け出してるなんて、考え付かないもんねー。もしかしてもしかすると
……あたしって、天才???

そんな考えがこの状況下で浮かぶ辺り、涼子の神経は頑丈だったのかもしれない。普通の精神を持っている生徒な
ら、とてもじゃないがこの状況で冗談を言ったり、ましてや楽しんだりするような言動は決してできないはずなのだが、
その点、涼子は優れていたのかもしれない。まぁ、真似をしたくない類のものではあったが。
しかし、涼子の運が相当に強いのもまた事実ではあった。銃で撃たれたにも拘らず、(それなりに怒りを表してはいる
が)未だに平静を保てているし、また政府側からはジェノサイドとして認定されている長谷美奈子からまんまと逃げ出
せている辺り、(そもそもこんな期間まで生き残っていること自体が、前項でも触れたことだが)運がいい。

 だが、世の中そう、運がいいことばかりではない。
 少しの歯車の食い違いだけで、呆気なくそれは幕を閉じるのだ。


「……んん?」

 そこは、崖だった。ただ適当に放浪していたのだが、その足は確実に崖へと向かっていた。その先には遥か遠く先
まで海が続いており、他の島も何も見えずに、ただ水平線が広がっていた。
白い雲。やがてそれは薄れてゆき、あれは海なのか、それとも空なのかさえもわからないくらいだった。それくらい、
海は碧く、空は蒼かった。
それはとてもじゃないが東京本島で見られるような光景ではなかった。本当に眺めのよい、絶景だった。

だが、涼子が反応を示したのはそんな大きなことではなかった。
むしろ、それに比べればとてもとても小さな存在、他の生き残りの生徒に、気が付いたのだった。

 あれは、男子だろうか。

 海からの風を真正面から受けながら、ゴロンと寝転がっていた。
 近くにはデイパックが沿うように転がっていて、足は崖の外へと投げ出していた。


 そう、それはチャンスだった。
今もしあたしがあの男子生徒に襲い掛かって、崖から突き落としてしまえば、当然あたしが殺したことになる。そうす
ればあたしは15分後に首輪を爆破されなくて済むし、武器も食料も手に入る。いい事だらけだ。

手首の時計に目を落とす。11時47分、充分だ。
さぁ、一気に殺してやる。


 走り始めた、その時だった。



  タァンッッ!!



 銃声は、一発。
 だがそれは恐ろしいほど正確に涼子の右即頭部から進入し、そして突き抜けていった。

 涼子自身、何が起きたかはわからなかっただろう。ただ頭に鋭い衝撃を感じた。それだけだったのかもしれない。
 牧野涼子の体は呆気なく崩れ落ちて、そして周りの草を緑から紅へと染め上げた。

「5人目……だな」

 そして涼子を仕留めた少年、粕谷 司(男子7番)はソーコムの弾を詰め替えると、今度はその銃声に反応してこち
ら側を向いている男子、小沢拓史(男子6番)へとそれを向けた。



  女子24番  牧野 涼子  死亡




   【残り13人 / 爆破対象者2人】



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