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 E=2、古木の根元。
 残り時間、僅か10分。


「砂田……あのさ」

 奈木和之(男子23番)は、ばつが悪そうに頭をかきながら、そっと隣に座っている女子に話しかける。その声は若
干震えていて、頼りなかった。しかし、それも仕方ない。

「なに?」

対して、相手である砂田利子(女子8番)は、ずっと自分のことを探していたらしいのに、実際にこうして合流してから
は何も口を聞いてくれなかった。互いに遠慮しあうのは苦手だったし、こう沈黙が続くのは嫌な雰囲気だ。元来、クラ
スのムードメーカーとして努めてきた自分にとって、なんとも歯痒い状況だった。

「やめようか、こんなの。ね?」

まずはこの重苦しい雰囲気から脱しなければならない。
それに応じる気があったのかどうかは定かではないが、砂田は反応した。

「奈木君はさ、どうして島野君のことを殺したの?」

そう、それは紛れもなく、自分が殺害した島野幸助(男子13番)の話。挙句の果てには、その死体を人目につかない
場所へと運び出そうとしているまさにその瞬間を砂田に目撃されてしまっているのだ。それは間違いなくショックであ
っただろうし、自身も相当それで苦しんだのだ。
結果として自分は人殺しとなり、呆気なく首輪爆破対象者から抜けることとなった。どの道積極的に他のクラスメイト
を殺しまわるつもりはなかったし、もしあの時に島野を殺していなかったとしてもただ単にあの場で島野に殺された
か、あるいは間もなく来る運命の時間で政府に殺されるか、そのどっちかであっただろう。
すると、今まで誰にも渡すまいと考えて封印してきた(いや、実際は既にその武器で島野を殺してしまっているのだ
から、封印とはとてもじゃないがいえないけど)イングラムM11を自分の死体を発見した誰かに奪われ、それが殺戮
用兵器として使用されるだけの話だ。結局自分がしてきた行為というのは、あまり意味は無かったのではないかとさ
え疑ってしまう。
だけど、だからといってこの武器を誰かに譲ろうなんて気はなかったし、出来ることならやる気ではない誰かにこの任
務を託したかった。しかしこの6時間が終了した瞬間、この会場で生き残るのはみんな、人殺しなのだ。

「どうしてって言われても……。説明しようがないよ」

そう、そして肝心の島野幸助の殺害理由。それは他人に話すことが出来るかといわれれば、間違いなく出来ないと
言える。島野幸助は普段からみんなと親しく付き合ってきた奴だったし、ただほんの一瞬だけ、その本当の裏の顔が
垣間見れたから殺しただなんて、世間一般的に考えてどう考えたって理不尽だ。

「ただ、一つ言えるのは……正当防衛だった。それだけかな。信じるかどうかは自由だけど」

だから、結局こんな答えしか言えない。お喋りが大好きだった自分なのに、今はこんなにも言葉が足りない。
もう少し、母みたいな話術があれば。もう少し、自身に語彙力があれば。


「信じるよ」


顔を上げた。
そこには、軽く微笑んでいる砂田がいた。

「そんな、信じるだなんて―― 」

安直過ぎる。実際、あの光景を見て叫び声を上げて一目散に逃げ出したのは何を隠そう君じゃないか。僕は人殺し
なんだぞ? 最強の武器を持っているんだぞ? なのに、なんで?

「奈木君のことなら、なんでも信じるよ」

わからない。君が、理解出来ない。
顔が火照る。

「……じゃあ、なんであの時逃げ出したの?」

「あの時は、全てに対して気が動転してたから。お兄ちゃんが粕谷君に殺されて、何もわからなかったから」

その口から発せられた事象は、とんでもない出来事だった。
顔を俯き加減にしてそう淡々と述べる砂田から、微かだが哀愁が感じ取れた。
もともと兄妹で行動していた砂田。それが、あの時は一人しかいなかった。それは即ち。そして……その加害者の名
前が、仲の良い……粕谷?

「粕谷が?」

「あと、唐津君と……長谷さん。今生き残っている中で、やる気になっているのは少なくともこの3人」

次々と口から出てくるやる気である人物の名。つまり、少なくとも彼女はその3人と出会っているのだ。それだけ、彼
女は戦場を潜り抜けてきたというのか。
そして、粕谷 司(男子7番)の名。いつも、一緒に笑い合ったりしていた。自分と、粕谷司と、秋吉快斗(男子1番)
と、そしてその粕谷に殺されたという、兄の砂田利哉(男子14番)と。
本当に、仲がよかったのに。どうして、殺しあっているんだろう。どうして、友達を殺せてしまうのだろう。とてもじゃない
けど、想像できなかった。悲しすぎる。プログラムは、ここまで人を変えてしまうものなのか。

「酷い、話だ」

「ううん、違うの。もっと酷い話、あるんだよ」

さらに畳み掛けるように、砂田が言う。

「この一連の、地獄みたいな特別ルールの元凶。それね……」

その時だ。時計の長針が、11の文字盤を指し示した。
瞬間、首輪に内蔵された起爆お知らせアラームが、作動を始める。

「あたしなんだよ」



  ピ……、ピ……。



「……なんだって?」


 風が吹く。周りの木の葉が、ざわめく。
 その電子音は、爆破までのカウントダウン。残り、300秒。




   【残り12人 / 爆破対象者1人】



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