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 魔の6時間が終わって、島内に放送が鳴り響く。
 今、この放送を聴いているのは、たったの11人。


“えーと……それではまず、死亡者を一気に読み上げますから、メモの準備をして下さい。そうですね、相当な数死ん
 でますよー。じゃ、行きまーす”

 淡々と任務を遂行している担任の道澤 静の声が、何故か身近に感じる。それはもしかすると兵士の蒔田信次
出会ったからなのかもしれないし、あるいはその放送の内容が気になったからなのかもしれない。
秋吉快斗(男子1番)は、地図を取り出すと、じっと構えた。汗が滲み出す。

 恵美は、無事だろうか。

“ではまず男子からー。2番 天宮将太、3番 市原文也、5番 沖田大介、6番 小沢拓史、12番 佐久良浩治、1
 3番 島野幸助、14番 砂田利哉、15番 関本 茂、19番 遠山正樹、24番 名倉 大、26番 芳賀周造、27
 番 原 尚貴、29番 堀 達也、30番 本条 学、34番 与木 悟……以上の15人です。というわけで、男子の
 残り人数は6人となりました”

片っ端から、斜線で名前を潰していく。予想していたことだが、やはり大多数の生徒が死んでいた。死を目撃した(い
や、殺したといったほうが正しいか)天宮や遠山以外にも、襲い掛かってきた関本など、プログラム中に遭遇した男子
は全て死亡したことになる。
慣れとは恐ろしいものだな。もう、こんなに名前を呼ばれたのに、感情の起伏が驚くほど少ない。

“続いて女子です。2番 磯貝智佳、3番 遠藤保美、5番 木藤早智、6番 古賀啓子、9番 曽根美鈴、10番 
 達佐織、12番 利島千春、14番 新倉友美、15番 根岸久美子、16番 野村君江、21番 保坂直美、22番 
 星野香織、23番 米原秋奈、24番 牧野涼子、25番 間熊小夜子、28番 実室久美、29番 武藤雅美、31番
 八木 雫、33番 脇坂真由美、そして……”

 ドクン。
 そ、そして……?

“8番の砂田利子さん。彼女は最期まで戦闘を拒み続けたので、残念ですが特別ルールに従い首輪を爆破しました”


 恵美は、呼ばれてない。
 安堵感が体中に溢れているのがわかったが、すぐにそれは死んだ他の生徒に申し訳ないと思い直し、やめた。

 くそ、何を考えてるんだ、俺は。

“女子は砂田さんを含めて20人。つまり、男女合わせて35人……もとのクラスの半分以上ですね。それだけの人数
 が、一気に消えたんです。皆さんのやる気具合が、よくわかりました”

 それは想像以上だったのだろうか。道澤の声は妙に落ち着いていたし、快斗自身、胸騒ぎがしていた。
 そう、自分だって、2人……殺しているのだ。恵美だって、最低でも1人は殺していることになる。

“今までの進行の遅さ具合から……本心を言うと、皆さん仲が良いんだなとか思ってたんですけどね。どうやら思い
 違いだったようです。今生き残っている皆さんに共通して言えることは、やる時は殺る人なんです。そうでなかった
 ら、時間切れがたったの1人なんて結果が出るはずがありませんからね”

 その言葉を否定出来ずに、快斗は俯いた。
 確かに、自分は容赦なく殺している。福本五月(女子19番)だって、天宮将太だって、戸惑いなんかなかった。

 やる時は殺る人―― か。
 確かに、その言葉が一番しっくりくるかもしれない。悔しいけれども。

“……というわけで、残りはたったの11人です。みんな、人殺しなんです。気を引き締めて、頑張って下さい”


 みんな、人殺し―― 。

 なるほど、そういえばそうだった。
 自分も、恵美も、そして他に生き残っている奴も、みんなみんなやる気であると政府には認定されているわけだ。
 まぁいい。俺は恵美の為なら、どんな犠牲をも厭わない。

“では、禁止エリアを発表します。1時からA=5、3時からE=8、5時からB=6が指定されます。大分増えてきまし
 たね。折角勝ち抜いたのに、こんなところで引っ掛からないようにしましょう。では、また次の放送で”

 ブンッ、という音と共に、再び辺りは静かになる。
 今までのようにBGMがなかったのは、緊張感を強調させる為だったのだろうか。確かに、緊迫感がある。

 とりあえず、恵美はまだ生きている。
 それだけは、紛れもない事実なのだ。

 なら、自分はどうすればいいか。
 そんなことは簡単だ。恵美の為に、出来ることは全てやらなければならない。


 まずは朝見由美(女子1番)。
 危険人物とわかっている奴を、このまま生かしておくわけにはいかない。


 快斗は、デイパックを担ぎ上げると、朝見の逃げた方向へと、歩き始めた。
 恵美の為なら。その一途な思いが、彼自身を崩壊させるとも知らずに。



  【残り11人】





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