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 永野優治という男に関する知識は、朝見の中にはあまりなかった。

 身長は165cm程度、体系は華奢だが、運動神経はいい方で、とにかくすばしっこい。友好関係はあまり活発では
ない方だと思っているが、別段クラス内で嫌われているということはなく、普通に可もなく不可もなくといった、あまり
目立たない生徒だった。
しかし、そんな男が今、自分の前にこうして立っているだけで、何か、場の雰囲気が変わるのがはっきりとわかった。
その瞳は、真っ直ぐと背後にいる辻を捕らえていた。一体、彼は何者なのだろうか。レイピアを慣れたような手つきで
構えるその姿は、なんだか頼もしい。

「永野くん。私と殺り合うつもり?」

その永野に対して、辻は敵意をむき出しにして、だがその場の雰囲気を楽しむかのように、抑揚をつけて言った。
永野も、視線を鋭くしている。彼は、こんなにも怖い眼をしていただろうか。どうも、いつものおっとりとした眼しか記憶
には無かった。まぁ、現段階で生き残っている時点で彼も人殺しの仲間入りなのだ。決して信じられないことではな
い。そして、永野はゆっくりと、静かに、言った。

「……先に手を出したのはどっちだ」

「あら? それがなにか問題なの? 先に手を出した方を殺すというのなら、間違いなく私ね。いいわ、相手になって
 あげる」

「お前か。まさかとは思ったけど……やっぱりやる気になっていたんだな」

「それはどういう意味かしら? 少し聞き捨てならないんだけど」


 沈黙。


 互いに、黙り込む。辺りは静かである筈なのに、どうも胸騒ぎがした。
 そして、切断された右腕から流れ出る血は、留まることを知らない。

「……無駄よ!」

 唐突に、辻が懐から何かを取り出した。そして、それをあさっての方向に向けて構える。
永野はちっ、と舌打ちをした。なんだろうかと思い、そちらを眺めてみると、その先には、体を硬直させている生徒が、
2人居た。一人は、峰村厚志(男子31番)。もう一人は、辺見 彩(女子20番)。3人で行動していたのだろうか。

「残念ね。少しでも邪魔をしたら、撃つわよ」

辻は、そう言うと、改めてその握り締めているGM FP45・リベレーターを構えなおした。拳銃だ。
そして、辺見の方も、どうやら銃のようなものを持っている。油断したところを、仕留めようという魂胆だったのか。とな
ると、その気配さえも、辻は察知していたことになる。素晴らしい才能だ、畜生め。

「……そうか、悪かったな。いけると思ったんだけど」

「そうね……もしも永野くんが私と真剣勝負をしてくれるのなら、あの二人を見逃してやってもいいわ」

「…………?!」

 なんとも、不思議な返事だ。
 あの二人を、見逃す。一体、何故? どうして?

「……お前、本当にこのゲームを楽しんでるのな」

「あら、朝見さんとの会話も盗み聞き? じゃあ、全て筒抜けだったのかしら」

「途中からだ、全容は知らない。だが、お前がこのゲームを楽しんでいるってとこは聞いた」

「……本当に抜け目がないのね。いいわ、さっさとあの二人を行かせなさい」

 くそっ、と言い残すと、永野はレイピアを下げた。
 そして、銃口の先にいる2人に向けて、言い放った。

「聞いただろう。行けよ、早く」

「だけど……!!」

 峰村が、そして辺見が、詰め寄ろうとする。だが、辻の圧力によって、それ以上は近づけなかった。
 そんな二人を促して、永野は言った。

「いいよ……もし終わらせることが出来たら、すぐに後を追う」

「優治!! お前、それでいいのかよ?!」

「いいんだって。ここで3人死ぬよりは、とりあえず2人、生かしておいた方がいいに決まってる」

「でも永野君……!!」


「いいからさっさと行けよ!! 早く行け!!」


 それは、突然の出来事。
 あの永野が、怒鳴ったのだ。いつも温厚な永野が、こんなにも剛く、毅く。

 峰村が、辺見の腕を掴む。
 無理矢理、連れて行こうとする。

「いやぁ! 永野君!! 嫌だ! 嫌だぁぁ!!」

 辺見の悲鳴を無視するかのように、峰村は腕を引っ張り、その場を去った。
 それを確認すると、永野は辻と立ち会う。

「……これで、いいんだろう」

「よくできました」

 辻はリベレーターを再び仕舞いこむ。どうやら、本当に日本刀だけで対峙するらしい。
 永野も、レイピアを再び、慣れた手つきで構えた。


「さぁ、はじめようか」

「……あなたも、随分と楽しそうなのね」



 辻が、そう言い放つ。

 そして……永野が次に見せた表情は、笑顔だった。



「まぁな。本当は、俺も……やる気だったんだぜ」



 今度は、辻が驚きの表情を見せた。
 おそらく、朝見自身も……その顔は驚愕で満ちていたに違いない。


 信じられない、事実だった。




  【残り10人】





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