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 秋吉快斗(男子1番)は、G=3の西側を歩いていた。
 森の中でもぼんやりと夜空の輝きで満ちている、そんな幻想的な雰囲気の中を、とぼとぼと歩いていた。

 腰に挿した日本刀『菊一文字』をそっと見る。死んでしまった遠山正樹(男子19番)からの贈り物だ。恐らく、自分
が死ぬその直前まで、こいつは持ち続けているだろうと、快斗は思った。
そう思うと、恵美とはぐれてしまってからというもの、色々な出来事があったといえる。遠山とは二度遭遇し、そしてそ
の旅立ちを見送った。朝見由美(女子1番)とも二度遭遇したが、残念ながら自分の知らないところで尽いてしまった
ようだ。
そして、天宮将太(男子2番)を殺した。いくら正当防衛だったとはいえ、やはり殺人というものは精神的にもおかしく
なる。どうしようもない自暴自棄に苛まれて、どうしたらよいのかがわからなくなってしまう。一度目の時は恵美に助け
られた、二度目の時は遠山が止めてくれた。だが、もしも三度目があるのならば、今度は誰にすがればいいんだろう
か。
みんなが思っているほど、自分は剛くはないと思っている。精神はまだまだ未熟だし、自分で色々な物事を決めるこ
とも完璧には出来ない。中学三年生らしいといえばそうなのかもしれないけれど、どうもそういうのはもどかしかった。
早く、背伸びをして大人になりたかった。だけど、今のこの状況を考えると、自分が大人になるのはどうやら無理らし
い。積極的に殺人をしない以上、生き残る術は皆無だからだ。おまけに、先程のわりと近くであった激しい銃撃戦。あ
いつと戦おうとしても、戦いのゴングがなった瞬間に掃射されて試合終了だ。つまらないにも程がある。

 今、日本刀を持っている。
 そして、自分は居合道を学んでいる。

これだけの偶然が重なれば、それはきっと奇跡と呼ぶのだろう。
だが、これだけの条件が揃っていようとも、大切な人を守ることができなければ意味がないのだ。こうやって必死にな
って恵美を探しているのに、見つけられなければ結局は同じことなのだ。折角、守れる術を手に入れたのにも関わら
ず、自分はこの力を使いきれない。それは非常にもどかしかったし、それに悲しかった。

 恵美……。
 お前は、一体何処にいるんだ……。

少し、頭を冷やそう。そう思って、近くにあった大きめの石の上に腰掛ける。
大きく背伸びをして、深呼吸をした。冷たい空気で肺が満たされて、眠気が一気に覚めていく。


「…………?!」


  ガササッ、ガサッ。


 すぐ近くの茂みが揺れた。
 そこにぼんやりと見えるのは、間違いなく人影。


  ―― 誰だ。


 快斗はさっと、刀を抜き出した。


  ガサササッ。ザサッ……。


「あらまぁ、秋吉君じゃない」

「お前は……」


 人影が、ぼんやりとした明かりに照らされて、その顔を現した。
 辻 正美(女子11番)が、そこにいた。


「辻……」

「えーっと……一つ質問しても大丈夫かしら、秋吉君」

「……なんだ?」


 彼女の制服は、凄まじいものになっていた。
一体、どれだけのクラスメイトを殺害すればそれだけの返り血を浴びることが出来るのか、そう思ってしまうほど、彼女
の制服は紅く、そしてどす黒く汚れていた。一目で、彼女がやる気であることと、それなりの人数を殺していることを
悟った。それにしても凄いね、このくらいまで人数が減ると、やはり登場するのは怪物級なわけだ。
そんな彼女は、自分をまじまじと眺めてくる。なんとも不思議だ。やる気なら、一気に銃か何かですぐに撃ち殺してく
るものだとばかり思っていたのだが。

「その……それ、刀……よね。それは、あなたのもの?」

突然、自分が抜き出している刀について指摘してきた。あぁ、そういえば辻は剣道部だったっけ。となるとやはり真剣
を見ると反応したりする、って事かな。
とりあえず、嘘をついてもしょうがないので正直に述べることにする。

「俺に支給された武器じゃないんだ。これは……遠山に、貰った」

「貰った? 奪ったんじゃなくて?」

「……あぁ、貰ったんだ。遠山に、託されたんだよ」

星空に照らされて、刃が光る。所々についたくすずみは、敵討ちの勲章ということでいいんだろうか。
すると、突然辻が笑い出した。何故だかわからず、別に面白いことを言ったわけでもない、ただ呆然と立ち尽くすこと
しか出来ない。

「何が、おかしい?」

「あ……いや、ごめんね。でも……なんだかとても嬉しくて」

「……嬉しいだと?」

すると、辻もなにやら長い棒状の物を取り出した。暗くて、よく見えない。
あれは……一体……。

「ごめんね、なにもおかしくなんかないわ。そう……きっとこれは運命だったのね」

「言っている意味がよくわからないんだが」

「実はね秋吉君。私の武器も……」

辻は、それを手にかけると、そっと抜き出した。
鞘から抜き出されたそれは、何人もの命を奪ってきた筈なのに、逆にそれで生き生きとしているかのように、星空に
照り返していた。そう……素晴らしいまでの、刀。

 即ちそれは。

「日本刀……なのよ」



 ……嘘だろ?




  【残り4人】





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