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 何故か、残ったのは虚無感だった。
 達成感などは微塵もない。ただ……疲労だけが、残った。


 何も考えちゃいなかった。
 ただただ、刀を振りかざして、それを振り落として、ただそれを連続で繰り返して、ただただ繰り返して。

怒りに身を任せ、暴れまわった。こんな経験は、初めてだった。元来激怒するということがなかったために、自分でし
たことが信じられなかった。何故か、福本五月(女子19番)を殺したときの記憶が、甦る。

 そう……ただ俺は、恵美を守りたい。それだけだったんだ。

快斗は急いで恵美の下へと駆け寄った。
真剣は辻を斬ったきりだ。もう、何処へ行ってしまったのかなんて覚えてもいないし、興味もなかった。

 ただただ、恵美が心配だった。

頭をゆっくりと抱きかかえて、そっと起こす。そして、軽く揺さぶる。


「恵美……おい、恵美! 起きろ、起きるんだ!!」


恵美の胸部からは、じんわりと紅の染みが滲み出ていた。それは真っ白なブレザーを鮮やかに染め上げていて、今
も尚、じわじわとその領域を広げていた。

 駄目だ、止血しないと。胸なんかどうやって止血すりゃいいんだよ?!

為す術もなく、快斗は手のひらで傷口を塞いだ。もう一刻の猶予もない。とにかく、止めなければならなかった。
何度も何度も、快斗は恵美の名前を呼んだ。

 その時だ。
 恵美が、目を開けたのは。

 それは……悲しく、虚ろな眼だった。


「快斗……」


 焦点が、まるで定まっていない。淀んだ、瞳。
 震える唇を、ゆっくりと動かしながら、恵美は、呟くように、言った。


「どこなの……快斗……」


「ここだ……ここにいるよ! お前のすぐ傍にいるんだ!!」


 恵美を、思い切り揺さぶる。
 両手でその顔を持ち上げて、無理矢理眼を合わせた。

 だが……それでも、恵美は。瞳孔を、震わせていた。

 途端、恵美が激しく咳き込む。と同時に、快斗の顔が、真っ赤に染まった。
 それが、恵美の口から吐き出された血なのだと理解するまでに、数秒を要した。

 さらに、それが深刻な事態だということに気がつかされたのも、少し経ってからだった。


「……助けて、快斗…………」


 肺に、穴が空いていて。
 全く息ができない状態なのだとは……快斗は最期まで、知ることはなかった。


「恵美……駄目だ! 死んじゃ駄目だ!!」


 恵美の目から、涙がこぼれ落ちた。
 はひっ、はひっ、と。不自然な呼吸音が、快斗の耳に届く。



 恵美の体が震えていた。

 恵美の体温が急激に低下していた。


 恵美が、ぐったりと……なった。



「……苦…しいよ…………快……斗…………」



 ふっ、と。
 首が、垂れた。体にかかる荷重が、増えた。


「……恵美、……恵美? おい、恵美??」


 何度も揺さぶる。その度に、力なく恵美の首が揺れる。
 瞳孔が、次第に広がっていく。


「おい、恵美……嘘だろ? 起きろって……おい、恵美!」






 ―――― 。






 嘘だ。
 嘘だ嘘だ嘘だ。




 恵美が死んだなんて。



 そんな。

 まさか。



 ……嘘だろ?


 誰か嘘だと言ってくれ。
 誰か嘘だと言ってくれ。

 誰でもいい。嘘だと言ってくれ。

 頼むから誰でもいい。誰でもいいから、嘘だと言ってくれ。


 これは嘘だ。

 これは幻だ。


 全ては夢なんだ。


 悪い夢だったんだ。





 そう、全部嘘だったんだ。







 ……そうだろ、恵美。

 全部、嘘なんだよな?






―――― 」






 恵美は、何も言わない。












「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああっっっっっっっっっ!!!!!!!!!!」











 快斗は、吠えた。
 全身を震わせて、雄叫びをあげた。









「バカやろうっ! バカやろうっっ!! この大バカやろうめっっ!!!」






 何度も、何度も。
 快斗は、恵美の胸を叩いた。

 それで恵美が生き返るわけではない。

 再び心臓が動き出すわけではない。




 そんなことは、わかっていたのに。







「バカやろう…………!!」







 快斗は、剛く……毅く……。



 恵美を、抱きしめた。






 もう、動かない。








 その体を。














  女子34番  湾条 恵美  死亡




  【残り2人】





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