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「それでは、乾杯といきましょうか」
「そうですね。それでは門並増美君の新任を祝いまし て、カンパ〜イ!」
政府の役員が、そして専守防衛軍の一部の人物が、某料亭に夜、集合していた。
「いや〜……しかし、20歳で一般人からプログラムの担当官を務める者が出るとは……出世しましたなぁ、増
美さん」
「えぇ……どうも。すみません……こんな普段着で着てしまって」
中年の頭髪の薄い男性に擦り寄られて、幾分遠慮して増美は答えた。確かに、今日の彼女の服装はという
と、赤いトレーナーに白いロングフレアースカート。特にスカートなどは立ってもつま先が見えるか見えないか位
の物で、明らかにサイズが合っていない。
「ところで、門並センセ。なんで、そのような長いスカートを穿かれておいでで?」
しかし、中年の男性に俗っぽい目で見られると、まるで長いものだと脚が見えないから短い物を見せなさい、
とでも言っているようだ。案の定、ハゲ(失礼)はにやついていた。
まぁ色々と身分では頼りになる男だ。答える義理はないが、言う事にした。少し、言い難いけど。
「実はこの服、4歳下の妹の服なんです。私よりも10センチも高かったんですよ」
「へぇ……妹さんのね。しかし……だった、って何故、過去形なのですか?」
少し宴会の派が静まる。
増美は、重い口を開いた。
「妹はプログラムに選ばれたんです。そこで……」
場が静まる。
おそらく大半の者は思ったのだろう。妹の命を奪ったプログラムの教官に、何故わざわざなったのか、と。
「1999年度の第42号プログラム。みなさんも、聞き覚えがあるんじゃないですか?」
と、1人の女性が手をあげる。確か自分と同じ所に配属されていて、道澤 静という女性だった。細い切れ長
の目が特徴的な彼女は既に立派なプログラムの教官で、正直あこがれていたのだ。
確か2歳年上だったか。
「それって……キルスコア歴代ベスト10に入った、あれですか? えっと、確か……外都川一君が出した、24
人……」
「そうです。24人目が、うちの妹なんです」
やはり新しめの出来事だからまだ記憶に新しい部類なのだろう、その場にいる全員が知っているようで、場
がどよめく。静は続けた。
「その外都川って、結構珍しい名字ですよね? 確か貴女が初めて担当するクラスに、そんな名字があったよう
な気が……」
「え?」
増美は、半ばハイハイで皮製のショルダーを引き寄せると、今回初めて教官をやる予定のクラスの資料をな
がめた。今度初めて担当するクラスの名前は、石川県の大井川専門中学3年5組。この中学は少し変わってい
て、全て五十音順にクラスが構成されていて、またクラス替えは3年間全くない。そして5組は、全てタ行の人
物で構成されている。余談だが、1〜4組はア、カ、サ行で構成されている。
そして……見つけた。男子35番 外都川仁。さらに資料を見てみると、あの妹を殺した男の弟。トトカルチョで
はかなり上位にランクインしている。なによりこの仁という名前、一の次ではないか!
「道澤さん! この子、本当にあの弟!?」
「え? えぇ……多分そうだけど……」
殺したい。
「でも、この子はきっと駄目ね。先日、足を骨折して病院で入院しているそうよ」
「じゃあ……私達が頑張って会場に運ぶんですか?」
冗談じゃない。妹の仇の弟だ。
自分の手で殺したい!
「うーん、それは貴方に任せるわ。本人が参加したいって言うのなら参加させてあげればいいし」
冗談じゃない。
妹を失った気持ちを、あの男にわからせてやりたかった。今度は、私があの男の弟を奪い去ってやる。
殺したい。
殺したい殺したい殺したい。
「門並センセ?」
「え……あ、ゴメンなさい……気分が良くなくて……」
自分が今、凄まじいほど殺人願望を持ったこと。それにとまどいながらも、増美は心の奥底で、ニヤリと笑っ
た。
プログラム実施日が、近かった。
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