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種村 宏(7番)は、おずおずと分校から出てきた。身長180センチ、体重60キロ弱。あだ名はヒロ。名前の
宏から取っているのであって、決してヒョロヒョロから取っているわけではないのだが、どうにもなじめない感じが
した。
彼にはとりあえず仲間がいた。徳永泰志が率いるグループよりは小さかったけれど、5人いた。
だが彼らと上手く合流できる可能性は、限りなく少ない。他の人物に出会う可能性のほうが圧倒的に高い。彼
はグループ以外のクラスメイトとはあまり親しくなかったし、正直身長が高いと誰も話し掛けてくれない。怖いと
でも思っているのだろうか? 自分としては、そういう風には思われたくなかったのだが。
彼は臆病者だった。親に虐待されていたという月島厚志(14番)よりはマシな方だったが、それでも臆病者の
部類には入っていた。同じように、自分と同じグループの筒山光次郎(18番)も臆病な性格だ。むしろこちらの
方が悲惨だろう。
だが、あとの3人は、むしろ勇敢な方だった。何故、正直言ってどうして自分達とともにいたのか、それがわから
ない。多分、信用できるのはそうだが、正直不安だった。寝首を掻かれるのではないか、本当に信用してよい
のか?
つまりは彼は自分も信用できなかったのだ。体育はそれなりに出来ていたけれど、勉強は駄目。授業中の居
眠りの回数はそれこそずば抜けて高く、三者面談までに至ったものだ。正直、何故自分はこういう風になってし
まったのだろう? やり直しは効かないのか? そう思いつづけて、結局は何もしなかった。口先だけ。正直(彼
は正直という言葉も癖だったが、彼自身は気がついていない)嘘つきものだ。結局オオカミ少年は誰にも信じて
もらえず――
だから彼には隠れることしか出来なかった。自分から立ち向かっていっても、正直自分なんて弱く思われている
に違いない。絶対にそうだ。自分より頭が悪いから、劣っているから……人間なんてそういうものさ。
だから彼は分校の影に隠れた。1人1人顔を見つめていこう。そして、静かにこの世に別れを告げよう。自殺願
望、というものだろうか? 手首にあるリストカットの痕が、痛々しく残っていた。
隠れようとした茂みの中に、大きな影があった。倒れていた。
何、コレ?
おそるおそる手をかけて、揺さぶってみる。感触が異常なほどに冷たかった。
何で……何で人間がこんなに冷たいんだ?
まさか……!?
顔を覗き込んだ。友永 武(39番)の凄い形相。信じられない、そんな顔をしていた。青白く染まった顔は凄ま
じく、彼は確信した。つまり。
「あぁぁぁぁあああっっっっっ!!!!」
叫ばずにいられなかった。誰だってそうだ。正直臆病者の彼にとっては失神するほどだ(女子ではないので簡
単には出来なかったが)。そして、後悔した。
自分は大声を上げてしまったのだ。つまり、誰かが来るのだ。自分を殺しに来るのだ。彼は殺されたくなかっ
た。いやむしろ自殺願望なんてものはとっくに彼の頭から吹き飛んでいた。
ただ、殺すのみ。
殺される前に、殺してしまえばよいのだ!
簡単なことだ!
無意識のうちに彼は自分のデイパックをあさり始めて、中から出てきた果物ナイフを握り締めた。
唇は笑いの形をとっていた。
さぁ来いよ!
誰でもいい!
ここに来るってことは、俺を殺しに来るんだろう?!
上等だ!
やってやる……やってやるぞぉ!!
熱い吐息が聞こえた。
「宏……!」
暗闇に響く声。それを聞いた途端、彼はその発言者に向けてナイフを突き刺した。突き刺したはずなのに、まる
で感触が無かった。
「宏! 俺だ!」
学生服に刺さったナイフから、血は出ていなかった。彼が視線を上げると、そこには、グループの1人……竹崎
正則(4番)がいた。正則の顔もまた、別の意味で笑っていた。
「竹崎……!」
正則の顔を見た瞬間、彼は意識を失った。
「ふぅ……いきなり襲ってくるなんてな……こっちはお前を探していたのに。ちょっと意識を無くして頭冷やせば
大丈夫だろ? ええっと……筒山が出てくるまではあと20分くらいか……。まぁ近づいたら起こしてやるか」
彼は失神し、正則は筒山を待つ。奇妙な組み合わせ。
正則は、黙って穴の空いた学生服に手を突っ込んで、言った。
「防弾チョッキ……か。ナイフとかにも通用するんだな」
【残り38人】
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