13
堤 洋平(17番)は、分校を出る前に昇降口でデイパックを開けた。もしかすると、玄関先で誰かが狙っている
かもしれない。そう感じたからだ。そう、今から自分がそうしようとしているように。
デイパックを開けると、一番上に、銃が置かれているのを見た。口笛を吹きたくなったが、やめておいた。
銃だ……、まぁとりあえずこいつを持っておけば、誰かが来ても大丈夫だろう。
そう思って、先程まで竹崎正則達がいた茂みに隠れ、無造作に弾の入った紙箱を取り出した。バルラPK85・リ
ボルバー、銃の名前は聞いている。なんせ専守防衛軍の武器の見学、なんていう特別授業だ。欠席なんてし
てられないぜ。正解だった。久々に真面目に授業を聞いてよかったと、洋平は思っていた。
紙箱を開けると、金色の弾が尻を向けて綺麗に並んでいた。装着できる6発分だけ取り出すと、慣れた手つき
で取り付けた。銃の感触がずっしりと来た。撃鉄を起こす。そして引き金をひとたび引いたならば、ほかほかの
鉛の弾が、銃口から飛び出して、簡単に命を奪ってしまうはずだ。思わずにやけた。
彼が考えていたことは、簡潔に言えばこうだ。出席番号が2番違いの悪友(自分で言うのもなんだが)、綱嶋裕
太(19番)と合流すること。たった2番違いだ。間の筒山光次郎(18番)さえどうにかすれば、合流するのは簡
単だ。現に、たとえ殺し合いという中でも、綱嶋とは絶対の契りを交わしていたし、ナイフを使って隣町の不良と
かと命がけで戦ったこともある(もちろんその闘いには全て勝っていた。おかげで不良の中でも有名な存在だっ
たし、親も世間体が立たないとほざいてもいた)。つまり、こういう状況にはなれているのだ。実際に人殺しをし
たことはないが。
そして、常に行動をともにしてきた綱嶋も、自分よりは強くは無いが、自分よりも頭が切れる。頭脳戦なら立派
な計画を打ち立てて、共に行動する。お互いに、良き理解者として付き合ってきたのだ。
だからもしなにか殺傷能力の高いものが支給されたのなら、2人で協力してクラスメイトを減らそう、そう考えて
いた。まずは俺の武器は大丈夫だ。綱嶋の武器も、きっと当たりの部類だ。なぜかふと、そう確信した。信頼で
きる……絶対に信頼できる……!
そう……俺はお前と一緒に人生を歩みたいんだ。
最期まで、2人で一緒に楽しもうじゃないか。
さぁ……、時間だ。足音が聞こえる。
大丈夫か?
本当に撃てるか?
目標を外さずに、1発でしとめられるか?
本当に、殺せるのか?
汗が噴出す。
「はっ……はっ……はっ……」
息苦しくなって、つい息が洩れた。
駄目だ……!
殺せ……、殺せ……。殺せ……!
息を止めて待てばいい、気付かれることなんて無い。
筒山だぞ!
臆病者の弱者だぞ!
脅えて出てくるはずなんだ!
そこを狙えば……絶対に筒山は立ち止まるんだ!
その一瞬を逃すな……逃すなよ……!
声は何故かだんだんと綱嶋のものになってきた。そして……
出てきた!
汗が出てるぞ!
撃て……ほら……、立ち止まったぞ…! 撃て!!
タァァン!
指が、人差し指が引き金を引いた。同時に、筒山の後頭部が爆発し、そのまま仰向けに倒れた。黒く見える液
体が流れていく。きっと……クリムゾン・レッド、赤く染まっていくだろう。そして……もちろん筒山は、死んだ、は
ずだ。
やったぞ……!
初めて、人を殺した!
ほら……ピクリとも動かない。1発で……1発で!
仕留めた! よぉし! 綱嶋、早く出てきてくれ! 俺、嬉しいよ…! ほら、殺したぞ! ほら!
時間は過ぎ、玄関に人影が現れた。もちろん、綱嶋裕太だった。綱嶋はゆっくりと筒山の死体の前で立ち止ま
り、眼を動かさずに言った。
「堤、いるんだろう? 出て来い」
静寂。洋平は人を殺して興奮状態になっていたが、綱嶋はそれを冷静に、むしろ冷めて見ていた。洋平は茂み
を揺らして、綱嶋を誘い込んだ。
「綱嶋……俺……」
だが、綱嶋は冷静に、淡々と洋平に言った。
「裏口から出るぞ」
「なんでだよ!? もっと……殺らないのか?」
「おい……成功するのは今回だけだ。考えてみろ、玄関に……死体があるということは、誰か襲撃者がいたと
いうことを自動的に他の奴に認識させる。いや、自分の命が惜しい奴は間違いなくまだいるものと思う。そんな
状態で、銃か。その状態で、精確に狙撃できるのか? お前は?」
洋平は……口をつぐみ、黙って首を振った。
「それに、裏口から出ないと、絶対に誰かいるはずだ、正門には。もしかすると、筒山と仲の良かった奴らがい
たのかもしれない。だから、俺達が一緒に分校を出たら、間違いなく疑われる。いや、断定されるだろうな。俺
達がやる気になってるって。そしたら、殺りにくくなる事この上なし……だ。わかったならいくぞ」
論理的にここまで言われてしまうと、洋平は黙って綱嶋に従うしかなかった。だが、綱嶋も自分と共にゲーム
に乗ることを間接的に言ってくれた。それだけが、嬉しかった。
裏口からそっと出ると、綱嶋はデイパックを開け、そして何かを取り出した。
「俺の武器はこれだ。対人用地雷……らしい。どうやったら効率が上がるか、考えてみよう」
地雷……か。これも充分殺傷能力はある。洋平は……再び顔に笑みを浮かべた。
かくして、最強の殺人者2人が結成された。
18番 筒山 光次郎 死亡
【残り37人】
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