18
連続する激しい銃声を聞いて、月島厚志(14番)はうめいた。
「マシンガンまで支給されているのかよ……」
同時に、彼には恐怖心が芽生えていた。
それは彼に支給された武器がただのワイヤー線だったからなのかもしれないし、親に虐待されて常に恐怖を感
じていた時の記憶がよみがえったからなのかもしれない。
または随分と近くでその銃声が聞こえたのも関与しているのかもしれない。
とにかく、銃声がしたのだ。
やる気になっている奴が既にいて、そして今……もしかしたら誰かが死んでしまったのかもしれない。
少なくとも、2種類の銃声がしていた……銃撃戦だ。きっとマシンガンだけでなく、普通のオートマチックな銃も
支給武器の中に入っているのだろう。
だが、自分の武器は何だ? ワイヤー線?
確かにドラマとかでは、よく切れる鋭い糸だということをやっていた。勢いをつければ首を切断することも(そうい
えばそうやって自殺した奴もいた。ニュースでやっていた)可能なのかもしれない。
だが……果たして背後から近づいて絞殺出来るのか?
そう、昔母親が自分に対してロープで首を絞めようとして意識を失ったこと。その間に父親が母親を警察に連れ
て行って、母親はそのまま帰ってこなかったこと。
全ての記憶が……あのおぞましい記憶が覚醒してきた。
痛いことには慣れっこだ。だからといって俺は死にたくない。
でも、生き残ることができるのはたった1人だけ。
上等だ、こんな武器じゃ生き残れないのは良くわかる。だから……簡単なことだ。武器を奪ってしまえばいいの
だ。無論簡単には奪うことなんて出来ない。殺さなければ……ならないのだ。殺してやるよ。上等だ!
だが……本当にこの武器で殺せるのか?
本当は民家にでも入って、包丁でも取得したほうがいいのかもしれない。
だけど、嫌だった。理由は簡単。彼は台所が嫌いだった……いや、拒絶反応があったといってもよい。彼は幼い
頃から虐待されてきたのだが、ほぼ虐待執行場所は台所だったのである。従って、彼はよほどの事がない限り
台所には近づかなかったのである。
「俺の痛みを思い知らせてやる……!」
体中いたるところに点在する傷。それは刺し傷であったり、また火傷の痕であったり。鏡の前にたつと、よくも自
分をこんな目に合わせたものだと、逆におかしくなってくるのが不思議だった。こんなに抵抗しない子供を傷つ
けて何が楽しかったのだろう、母親は。もしかするとただの精神障害者か何かか……。どちらにしろ既に家には
いない……いや、もうこの世に存在しているのかどうかさえもわからないが……、まぁ2度と逢えないだろう。逢
いたくもない。
銃声が近くでしたことから、彼は今は移動をしていた。
分校を出た時点では彼は恐怖心からやや小走りで適当に逃げ、地図でいうとH=5の家の前にいたのだが、
家に誰かいたので外の茂みに隠れていた。中にいた人物はすぐに出てきたのだが、顔を見るとどうも大河幸弘
(1番)と寅山 寿(41番)らしかった。別に親しい奴でもなかったし、声を掛けるのはやめておいたのだが。もし
かすると銃撃戦が聞こえた場所に行ったのかもしれない。巻き込まれたか……あるいは……どのみち彼らは南
に向っていたので、可能性は否定できなかった。まぁ、別にどうでも良かったのだが。
とりあえずさほど移動はしないほうがいいと思い、200mばかり西……エリアH=4へ移動していた。
途中大きな家があり、窓は全て締め切られていた。
「危ないな……誰かいるかもしれない」
少し考えて立ち止まり、その辺に転がっていた拳大の石を右手で掴み取った。そして、そのままその家に向っ
て放物線を描くように投げつけた。石は綺麗に弧を描いてドンッ! ……と屋根の上に音をたててぶつかり、そ
のまま音を立てて転がり落ちた。草が生えっぱなしになっているのだろう。ガサッ! という音が最後に聞こえ
た。
これで、誰かが家の中にいれば出てくるだろう。そしたら別に殺しても良かったし、いないにこしたことはない。5
分ほど待って(時計は5時37分を指していた)、何も反応がないことを確認すると、素早く前を走りすぎようとし
た。
その時だった。
ガチャリ……!
よりによって扉の目の前を通過しようとした時に、家の玄関口が音を立てて開いた。思わずそちらに目を向ける
と、扉を開けた男、尚本健一(3番)と目が合った。尚本……気の弱い奴だ。運動神経は俺の方が上。
厚志の顔に、笑みが浮かんだ。同時に、健一の顔にも恐怖が浮かんだ。
【残り33人】
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