20

 手首に取り付けた時計を見ると、針は午前5時40分を指していた。

「まさか最後のほうに出発することになるなんて……運ないなぁ……」

 つい4分前に、徳永泰志(31番)は分校を出た。
最後から3番目に出発した彼の頭には、既に自分達のグループのことしか頭に無かった。何故なら、既に何か しらの銃声が聞こえていたから。もしかすると、もうやる気になっている奴がいるのかもしれない。
いや、間違いなくいるのだ。現に分校の前には、銃殺されていた筒山光次郎(18番)が倒れていたのだ。

大丈夫だ。幸弘なんかはいざというときには頼りになる男だ。きっと最南端に到着しても、静かに自分がくるま で隠れ続けてくれるはずだ。大丈夫だ……きっとまだ全員生きている。

 その希望を持ちつつ、泰志はデイパックから出てきたカジュアル2000・オートマチックを右手に握り締めて走 った。一刻も早く、最南端に行かなければならなかった。

「カジュアル2000……か、皮肉だな」

 バスの中での会話が甦った。自分は確か仲間に言っていた。この銃に何か惹かれた……と。つまりはこうい うことだったのだ。まったく、素晴らしい偶然ではあったが。とにかくこれで仲間を守らなければならない。そし て、脱出しなければならないのだ。このクソゲームから。

 そして泰志は走りつづけた。既に集落は抜けていた。おそらく地図で言うとH=6あたりだろう。
ふと、異臭に気がついた。教室でも嗅いだ覚えのある、決して慣れる事の出来ない、血の匂い。
誰かが怪我をしているのかと思ったが、南へ行くほどその臭気が強くなっていくことに、泰志は恐怖を感じた。 おぞましい考えが、体をかけめぐっていった。



 まさか……。



安心して歩調を緩めた足を、再び速めた。だんだんと強まる濃厚な血の香りのせいで、既に泰志の頭の中に は、最悪の場合しか頭に思い浮かべる他なかった。

 そして。


「…………!」


 島の最南端は、砂浜でなく岩場だった。
 そして、誰かが倒れていた。

 その倒れていた人物は顔が半分砕けており、そのゼリー状のもの……脳だろうか? 脳を撒き散らしていた。

「……元道か……?!」

 それだけではなかった。近くの岩場の影に突っ伏していたのは、今度は全身に弾を浴びてもはや原型を残し ているのかと思えるほどの死体。

「……高志かよ?!」

 さらに向こう側、腹に大きな風穴を開けた、小柄の死体。
 そして顔のちぎれ掛けた死体。

「……寿と…幸弘…な…のか?」

 要するに、みんな死んでいた。たった一人を、除いて。

「て……寺井がいない。あいつだけ、逃げ延びたのか?」

 嫌な予感を振り払いつつ、血だらけになった岩場をくまなく探してみたが、何処にも死体は無かった。つまり、 寺井だけは生き延びたのだ。
つまりはこうだ。誰か襲撃者がいて、次々と仲間を殺した、そして運動神経の高かった寺井だけは、なんとか逃 げおおせたのだ。あるいは、まだ逃げつづけているのかもしれないが、銃声はしていない。もしかすると、寺井 がこの場に来る前に、既に事態は決着していたのかもしれない。

 だが。

「……嘘だろ? おい……返事しろって……! おい!?」

現に今ここには4人の仲間がかたまって死んでいる。元気な笑顔を見せて……泰志に期待して、希望を持って 出発した仲間は、誰だかわからないがあっさりと殺されてしまったのだ。



 さっきまで、生きていたのに。



「……ち……ちっくしょぉぉぉぉおおお!!!!」



叫んだ。そして、泰志は誓った。





 絶対に許すものか!

 襲撃した奴が誰かは知らないけど……



――してやる……!」



 呟いた。

 決心を込めて。



 仇を討つために。





 全員、皆殺しにしてやる……! と。大きな誤解を持って。



【残り32人】




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