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   大きくなったら、消防士になる。
   そして、父親の仇を、取ってやる。


 某日、作文で書いた『大きくなったら』は、鳥本賢介(42番)の書いたものと内容は似ていたが、職業的に危 険性がはるかに違った。どちらも人の命を助けるもの。だが、最新医学を駆使して頭を使って命を救うのと、荒 れ狂う炎の中に勇敢にも飛び込んでいって人命を助ける。どちらが危険か、お前にわかるか?


 東堂友良(28番)の父親は、町内でも有名な消防士だった。それは、絶対に逃げ遅れた人を救出する才能を もっていたからであって、決して変な意味ではなかった。あの日までは。



 ある晩突然、50m程離れた所にあった暴力団事務所が火事になった。『津代岩組』などという馬鹿げた事務 所の連中が、その有名である父を訪ねて自宅へ押し入ってきたのだ。
その日は父は非番で、最初は断っていたが、話によるとどうも組長が3Fから逃げ遅れたらしく、どうか助けて欲 しいと土下座までしたのだ。仕方無しに父は家に置いてあった消防服を着て、突入していった。

「すぐに帰ってくるさ」

その言葉が、父の最期の言葉だった。
電話が鳴った。消防署からだった。父が死んだ、お悔やみを言う。それだけだった。
話によると、組長を助け、組長に言われた高価な壷を取ってこいと言われて嫌々取りに行かされた所を、柱が 突然崩れてきて下敷きになったのだという。火災の原因は、組長の寝タバコだった。

翌日、悲しんでいたところに津代岩組の連中が来た。だが、彼らはお悔やみを言うどころか、高価な壷が割れ て価値が無くなった、弁償しろなどとほざいてきたのだ。


 こいつらはカスだ!
 クズだ! 人間のゴミだ!


そしてその時誓ったのだ。その組員全員に復讐すると。父親の仇を取ってやると。そう、父親の後をついで消防 士になってから、お前達を皆殺しにしてやると。



 あくまでこのプログラムは、人殺しの練習に過ぎない。

「鳥本……俺を殺すつもりか?!」

だから火災現場には慣れていた。火は怖くない。不完全燃焼を起こして発生した一酸化炭素さえ吸い込まなけ れば、恐れることなど無いのだと。

「ち……違う! 僕は、診療所が憎くて……」



 何を言っているのだ? この馬鹿は?

 ああ、確かこいつも母親を亡くしたんだったな。それで医者になるとか言っていて……随分と優しい奴だぜ。



「診療所なんてなくなればいいって……だから……」

「だから、俺共々診療所を消し去ろうとして、火をつけたのか?」

「違う! 君がいるなんて考えてもいなかった!」

プログラム。それは40人あまりのクラスメイトが最後の1人になるまで殺し合いを続けるという殺人ゲーム。




 了解、のってやるぜ。
 殺されたら仇も取れないからな。




友良はデイパックから緑色の缶を取り出した。それが手榴弾ということは普通に知っている。
ピンを抜いて5秒後にドカン。



 さぁ、祭りの始まりだ。



友良はピンを抜いた。賢介の顔が恐怖で溢れている。それはまるで復讐劇を楽しんでいるような……とにかく 今の友良は正常ではなかった。友良は投げた、緑色に鈍く光るその缶詰を。賢介が逃げようとして後ろを振り 向く。だが、時は既に遅かった。



 バゴォ……ムッ!!



強烈な、しかし予想したよりは違う音の爆発音と、それに比べれば大分小さい蚊のような悲鳴が聞こえて、だ がそれもすぐに終り、再び建物が燃えている音だけが辺りを占めていた。

「ふふふ…ふふ……はっはっは!!」

笑った。
既に友良の精神は完璧に崩壊しており、自我を忘れていた。



 ガララ!



だから突然もろくなって建物の重みに耐え切れなくなった柱が、彼の父親が死んだときと同じように友良自身の 頭上に落ちてきても、最期まで彼は笑っていた。



  28番  東堂 友良
  42番  鳥本 賢介  死亡



【残り27人】




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