42

 ただ、2人は走りつづけていた。後ろからは誰も追いかけてこないのに、ただ見えない敵が怖くて。


 津崎修という殺人鬼が怖くて。


突然、塚本が力を無くして倒れた。

「塚本……! どうした……?!」

そして、言ってから気がついた。塚本の背中に、2発の銃痕があることに。そして、そこから多量の鮮やかな色 の血が流れ出していることに。
そして……塚本自身の呼吸が短く、荒いことに。

「おい! 塚本!」

「は……ざまぁねぇや……ここで、ゲームオーバーだよ」



 ゲームオーバー?

 何だよ、それ?! また……冗談なのか?



だが不思議なことに、塚本は笑っていた。それは、とても重傷のものとは思えなかった。

「折角……残り半分まで生き残ったのにさ……悔しいなぁ……」

「どういう、ことだよ?」

「俺、さ……このゲーム……楽しんでたんだよ。今まで黙っていたけど……」

その言葉を聞いた瞬間、良介の心の奥で、何かが崩れた。


 楽しんでいた……だって?


「これはゲームだ。最悪のサバイバルゲームだ……だけどさ、ゲームじゃん? ゲームならゲームらしく……最 期まで楽しくやりたかったんだよ……。でも」

「でも?」

「くひひ……! もう駄目ダァ。俺、死んじゃうよ」



 こいつ、狂ってるのか?

 それとも……ただ、現実逃避しているのか???



そして、思い出した。塚本が団条を撲殺した時に、その顔に笑みを浮かべていたこと。それはつまり、その…… このゲームのなかの1つの選択肢の『殺す』を選んだだけじゃないのか、と。だから『選択/実行』しただけ。そ う、これはゲームなのだ。きちんとしたルールがあるじゃないか。

 でも。

「お前……笑い事じゃないだろ?! なぁ?」

これはたしかにゲームだ。史上最悪のゲームだ。生存権というものを奪い合う、史上最悪の椅子取りゲーム だ。だけれども……このゲームでの負けとは、すなわち、死。死んじゃうんだぞ?!

 なんで、笑っていられるんだ?!

「そうでもねぇよ。俺、楽しめたしさ。お気に入りの人と合流も出来たし、人殺しも出来たし……中々のスコアじゃ ねぇの? そう思わねぇ? いいさ、俺は……楽しめた。もう、充分だ」

そして、体が急速に冷えていくことがわかった。自分自身が、震えてきた。


 そんな……そんな!


僕は、塚本がいなかったら、とっくのうちに死んでた。これからも、塚本と一緒にいたいんだ。だから……先に逝 っちゃいやだ、そんなの、駄目なんだ。

「塚本……死ぬなよ……!」

「泣くなよ。お前は、悔しいけど俺よりも生き残れる。頑張って、いいスコアだせよ。じゃあな」

最期にまたくひひ……、と笑うと、塚本はゆっくりと目を閉じた。
そして、もう2度と塚本が目を覚ますことは無かった。

「何がゲームだ! このバカ野郎……!」

もう聞こえないのに、良介は罵声を浴びせた。そうでもしないと、泣きそうだったから。
同時に、津崎修に撃たれた左二の腕が再び痛み出して、急いで止血しなければと思った。


 だが。


「動くな」

 森の中で響く声。
振り返ると、立川朋彦(5番)が、そこに立っていた。

そして彼は、拳銃を握っていた。



 塚本。僕ももう、退場かもしれない。





  13番 塚本 大作  死亡



【残り20人】




 Prev / Next / Top