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地図上のエリアB=8。この辺り一体にも小学校を中心とする住宅街が在り、小さな集落のような感じになっ
ていた。そこに位置する周りよりも少し大きめの家に、ただ息を潜めながらその男はいた。
彼、堂本文男(29番)は種村 宏(7番)と同じくらい臆病者だと考えてもいい。いや、あるいはそれ以上かもし
れない。まぁ、つまりは極度の恐怖症というわけである。
そんな彼がまず取った行動は、逃げること、であった。分校の前で筒山光次郎(18番)の射殺したいなんても
のを見てしまった彼は、あっというまに恐怖に取り付かれて走り出した。ここにいたら、殺されてしまうと。そして
気がつけば、小学校の目の前にいた。だが、本能的にそこは危ないと思い直して、結局その近くの家に隠れつ
づけた。
幸いまだこの周辺は禁止エリアも無く、逃亡者が駆け込むのは恰好の場所だとも言えた。
彼は相変わらず家の中で脅えながら座っていた。その手には、支給された武器、サーベルがしっかりと握られ
ていた。誰かが来たら、迷わずにこれで切り刻むつもりでいた。
殺らなきゃ殺られるんだ…!
誰にも文句は言わせない…!!
そう思いながら、時は刻まれていった。
やがてそれは3時間が過ぎて、6時間を過ぎて、そして9時間目に入ろうとしている。緊張しっぱなしなのは体
に良くないが、油断大敵、どんな時でも集中していなければならなかった。それが彼の体力を精神的にも消耗
させていったのだ。
最初の2時間で、11人が死んだ。次の6時間で、9人が死んだ。そしてまた、銃声が何度も聴こえている。誰も
死んでいないとは、言えなかった。とっくに残り人数は半分を切っているだろう。まだ……半分……。ああ、この
まま誰にも会わずに最後のやる気になっている同士が相打ちになってくれればどんなにいいことだろうか。ただ
家の中で震えていたら優勝してました。すごい珍記録だ。
ただ、つまりそれはクラスメイトが全員死んでしまったことになる。例外など無いのだ。最後の1人になるまで、
このゲームは絶対に続く。
嫌だ……!
死にたくない、まだ死にたくない……!!
その時、カシャン、と窓の割れる音がした。
ドアの鍵は閉めておいたはずだ。勿論窓も全て。
ということは。
まさか……ガラスを割って入ろうとしているのか?!
冷や汗が垂れるのがわかった。
「誰かいるのかな?」
「馬鹿だなぁ、こんな沢山の家があるんだぜ? その中の1つに入り込んで誰かと遭遇するようじゃ、俺達の運
が無かったってことさ。ま、プログラムに巻き込まれている時点で素晴らしい凶運だけどな♪」
そして笑い声。
誰だっけ? こんな声していたの……誰?
種村? それとも?
入ってきた人物は2人。その足音が聞こえるたびに、堂本は震えていた。逃げようとした瞬間、それまで座って
いた椅子が倒れてしまった。
ヤバイ!!
だが時既に遅し。派手な音を立てて、木と木がぶつかり合う音。
「誰だ?!」
扉を開けて中に入ってきた2人は、積井尚人(20番)と照屋宗治(25番)。2人は確か仲が良かったはずだ。だ
からお互いに信じあい、行動を共にしてきたのだろう。
「堂本か……」
その時、彼の体の中で、何かが砕け散った。
殺らなきゃ、殺られるんだ。
他人なんて、どうだっていい。
僕は、生きて帰るんだ。
堂本は、気付かれないように、そっとサーベルを握り締めた。
外は曇り始めていた。
【残り17人】
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