58

 棚瀬良介(6番)は、悩み苦しんでいた。

立川朋彦(5番)と合流してからかなりの時間が経過した。結局スミスアンドウエスンは良介が持つことになった し、弾も装着できるだけ装着しておいた。ただ、予備マガジンが無かったので弾が尽きたら込め直さなくてはな らなかったのだが。

あれから再び山沿いに南下した。そして、今はここ、地図でいうF=4に腰を落ち着かせていた。先程の放送を 聞いた限り、当座禁止エリアの心配はうっすら遠くに見える山道、E=5だけだった。既に雨はあがり(夕立だっ たのか?)、ぬかるんだ土が月明かりを淡く照らしていた。もう夜なのだ。

「なぁ、立川」

「あぁん?」

ぶっきらぼうな返事に少しむっとしたが、良介は話を続けた。顔は見なかった。

「やっぱり、これ……お前が持ってろよ」

だが立川は手を差し伸べずに、首を軽く振った。

「お前が持っていろ。お前が持っていたものだ」

「いや……もともとこれは僕の物ではないし」

「大丈夫だ。俺にはモデルガンがある」

もうこの質問は何回目だろうか。時々思うことがある。もう、こいつは生きようとは思っていないんじゃないだろう か、と。つい1時間前に聴こえた銃声にも全くといっていいほど関心がなかったようだし、何を考えているのか見 当もつかない。それはある種不気味だった。

「なぁ……なんでそこまでして僕を庇ってくれるんだ?」



 ぱらららら……



聴き慣れた銃声がした。やる気になっている奴の印だ。もうお迎えがきてしまったのか。そんな事を考えなが ら、とりあえず伏せた。隣の木の枝が、弾けた。
立川も同様に伏せていたから、まだ完全に死のうとは考えていないのかもしれない。後ろの木の幹が弾けるの を確認した。

「棚瀬、逃げろ」

この言葉を聞いて一瞬、良介はその意味を理解できなかった。
逃げろ、とはどういうことなのか。最早その意味さえも分からなかった。

「お前……なんだよ?! それ……死ぬ気か?!」

「ああ、そうだ。囮になってやる。だからさっさと逃げな」

逆に笑みを浮かべながらそう言う立川の方が不気味だったが、考えている時間など無い。殺人鬼の顔が一瞬 月明かりに照らされた。寺井晴行(24番)だった。


 信じられない……なんであいつが……!


そう感じながらも、立川の勢いに任せて逃げるしかなかった。

「最期に質問に答えてやるよ、何故お前を俺が庇うのか。それはな、お前を生かしたいからだ」

「どういう意味だよ?!」

「お前を殺させたくない、いや……死んで欲しくないって言う方が妥当かな。みんなお前のこと気に入ってたん だぜ?」


 え……? それってどういう……


その瞬間、再び後方に弾が集中し、立川が走り出していった。もう……その意味は分からない。
良介は唇をかみ締めて逆の方向に走り出した。そして走りまくった。気がつくと、銃声は止まっていた。

「逃げ……きれたのか……?」





 一方立川は、追いかけてきた寺井を見てその顔に笑みを浮かべた。
寺井はその手に構えたマシンガンを構えたまま、質問を投げかけた。

「どういうことだよ? お前、最初から死ぬ気だったのか?」

「そうじゃなきゃ寺井、お前は俺を選ばなかっただろうが」

2人で佇んでいる光景。一方は本物の銃を、もう一方は玩具の銃を手にしている。実に変な光景だ。
寺井は肩を竦めて、敵わないね、と言った。

「俺が死んで……もう残りは多くても12人だな。お前は生き残るつもりなのか?」

「まぁね。死にたくないっていう気持ちよりも、生きたいっていう気持ちの方がデカイかな」

それから寺井は大きく息を吸い込むと、溜息をつき、言った。

「それに、お前が死んだら多くても残りは12人じゃない。10人だ」


 直後、単発の銃声がして、また一つ、花は散った。



  5番 立川 朋彦  死亡



【残り10人】





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